過去20年以上にわたり、電子機器は複雑になり続けてきました。基板の密度は限界に達しつつあります。EMC/EMI規制は進み、より厳格化しました。高速化できる余地は小さくなりました。このため、PCBレイアウト技術者が今日のPCBを確実に設計するには、EMC、PDN、EMI、SIを十分に理解することが必要です。この記事では、PCBスタックアップを正しく作成するための考慮事項についていくつか解説します。
このブログでは、PCBスタックアップをどのように計画し、基板設計CADのAltium Designerで実装するかについて解説します。HSD(High Speed Digital Design、高速デジタル設計)を行うときのSIの問題を最小化するための設計最適化について検討します。
学習内容
PCBレイアウト技術者が行う最初の手順は、applicationに使用するPCBの積層材料(樹脂、銅箔、ガラス繊維)を選択することです。選択するPCB積層は、applicationの種類により決定されます。
以下のデータを追加できます:
適切な材料を選択するには、PCBのデータシートを理解する必要ががあります。
CTE
CTE(Coefficient of Thermal Expansion、熱膨張係数)はPPM単位で表されます。通常は、x、およびy軸よりもz軸の数値の方が大きくなります。特にz軸について、このパラメーターは重要です。実装時にこの係数が大きすぎると、積層材料と銅箔との膨張率の相違から、ビアに微細な亀裂が生じることがあります。
その一方で、多くの熱サイクルが存在する電子機器の設計時は、x、およびy軸のCTEに注意する必要があります。航空宇宙業界を例に挙げると、LEO衛星は90 ~ 120分で地球を一周します。そのため、衛星の温度変化が頻繁で激しくなり、コンポーネントの側面に亀裂が生じる恐れがあります。そこから、x、およびy軸のCTEが非常に重要となるわけです。
Tg: ガラス転移温度
Tgは、プリプレグ樹脂が固体から、十分に弾力性のある材質に変化する(融解する)温度です。
Td: 分解温度
名前から想像できるように、プリプレグ材質が分解し、その性質が失われ始める温度です。
Dk: 誘電率
このパラメーターは、コア、およびプリプレグ材質の平均誘電率です。プリプレグのガラス繊維は次の図のような構造をしているため、平均という用語を使用します。
図1のプリプレグでは、ガラス構造のギャップが樹脂で埋められるため、誘電率がDk1のゾーンとDk2のゾーンが生まれます。非常に高い周波数では、これにより問題が発生することがあります(この記事では解説しません)。重要なのは、HSD回路を設計するときは可能な限り均質な、I-Speed、FR408HR、Tachyon 100Gなどのプリプレグを選択する必要があるということです。
絶縁体を通過する電磁気の波形は、材質により一部吸収されます。この吸収の測定値は、データシートで通常Dkと記載されるパラメーターです。この値は、式1を使用してインチごとの減衰に変換できます。
Att=2.3 f tan(δ) √(ϵ_r ) (dB/in]) [式1]
ここで、fは周波数(GHz)、ϵ_rは材質の誘電率です。
例: Isola FR408HRはϵ_r = 3.7、tan( δ )= 0.011なので、10GHzにおける減衰はAtt(10GHz) = -0.94(dB/in)です。したがって、FR408HRを3インチ使用するだけで-3dBの減衰が発生します。
PCBスタックアップを設計するには、必要なレイヤーの数を推定する必要があります。
推定の方法は2つあります。
P_avg=(XY)^(1/2)/N 2.7 M [式2]
ここで、XとYは基板のX、およびY方向の寸法(インチ)です。したがって、Mを推定し、そこから得られるピッチがPCBテクノロジーと互換性があるかどうかを確認すれば、配線レイヤーの数を推定できます。
配線レイヤーの数を推定したら、プレーン数を決定する必要があります。
F_GHz=150 √((l/L)^2+(m/W)^2 ) [式3]
ここで、l とmはモード、WとLは寸法(mm)です。例えば、プレーンの寸法が100mm x 50mmなら、最初のモードは1.34GHz近辺で共鳴します。この情報に基づいて、EMCテスト (放射放出) においてピークが1.34GHz近辺で、どのクロックの倍数 (または、相互変調) でもないなら、プレーンが共鳴していると考えられます(共鳴周波数を高くする設計技法もありますが、この記事では触れません)。
ここで、PCBスタックアップを設計してみましょう。ここまでの説明で、次のことがわかっています。
ポイント1と2から、applicationで必要なレイヤー数を大まかに推定できます。信号用に6レイヤー、プレーン用に6レイヤーを使用すると想定します。Altium Designerを起動して、さっそく設計を開始しましょう。PCBプロジェクトを開き、PCBドキュメントを作成します。次に、[Layer Stack Manager] を選択し、
[Tool]-> [Presets]、[12 Layers] の順に選択します。
Altium Designerにより、次に示すようなデフォルトのPCBスタックアップが作成されます。
次に、application用に選択したPCB積層材質を使用するよう、このスタックアップを変更する必要があります。
デフォルトの材質に適切なものがない場合、項目を変更して正しい材質、厚さ、Dk、Dfを入力できます。
Altium Designerに含まれているデフォルトのスタックアップは既に適切な対称構造で、スタックアップをどのように設計すべきかの良い例になります。
適切な材料を選択したら、信号、重要な信号、パワープレーンに使用するレイヤーを決定する必要があります。
まず、重要な信号(クロックトレース、ddrトレースなど)から計画します。例えば、基板にいくつかのトレースがあり、特性インピーダンスが50、および90Ωなら、それらのトレースをどのレイヤーに配線するかをAltium Designerで選択できます。
下部にある [Impedance] タブをクリックします。
次に、[Add Impedance Profile] をクリックします。
デフォルトのインピーダンス プロファイルは、50Ωのトレース用のものです。
例えば、上述のインピーダンス プロファイルに従うと、50Ωのトレースの幅は最上層、および最下層のレイヤーでは約0.14mmですが、内部のレイヤーではわずか0.038mmになります。この値で問題なければ次に進みます。問題がある場合は、プリプレグの厚さか積層材料を変更する必要があります。
今度は [+] アイコンをクリックし、新しいプロファイルを作成してから、[property] で目標インピーダンスを [90] に変更して、90Ωのトレース(通常は、USB用)を配線します。
レイヤーに90Ωのインピーダンスを配置できない場合、Altium Designerのインピーダンス プロファイルに警告が追加されます。
その場合、要件に応じた適切なソリューションが得られるまで、材質を変更して上述の手順を繰り返します。
次の記事では、マルチレイヤーPCBに重要な信号を配線するとき犯しがちな設計の失敗のいくつかを、Altium Designerを使用して回避する方法について解説します。
Altium Designerの無料評価版をダウンロードしてスタックアップとインピーダンスの機能について詳しく学ぶことができます。ご不明な点などございましたら、お問合せフォームにご入力ください。