今回のブログは、LTE GNSS Asset Trackerプロジェクトの第2弾です。パート1では、プロジェクトに適したコンポーネントを特定し、回路を設計しました。パート2では、PCBのレイアウトと配線を行ってプロジェクトを完成させます。
前回の記事で、高密度基板を作るため、この基板をできるだけ小さくするという目標を述べました。配線には6層が必要になるだろうと考えています。ただし、基板の全体的なサイズは、設計者の希望にかかわらず、最も大きいコンポーネントによって決まります。18650リチウムイオン電池ホルダーとLTEアンテナにより、この基板のフットプリントが定義されます。LTEアンテナには、スペースおよびレイアウトについて特有の要件があり、この要件と18650電池を組み合わせて長さが決まります。また、LTEアンテナのみで幅が決まります。
プロジェクトはまだ比較的小さく、コンポーネントの配置に関する限り、予想されるサイズより大きいほど、エンジニアリングのトレードオフを少なくできます。
レイアウトおよび配線に進む前に、繰り返しになりますが、この記事のパート1で述べた内容を振り返ります。このプロジェクトはオープンソースであり、ソフトウェアの変更または再頒布の要件が最小限のMITライセンスの下で使用できます。プロジェクトファイルはGitHubにあります 。このプロジェクトのコンポーネントは、私のオープンソースのAltium Designer®コンポーネントライブラリであるCelestial Altium Libraryにあります。このプロジェクトを基にしてご自分のプロジェクト/製品を新たに開発することも、必要に応じてプロジェクトの一部を使用することもできます。
これをRF基板と仮定した場合、基板上に最初に設定するのはレイヤースタックです。RFトレース向けに適した小さいトラックを配置するには、少なくとも4層にする必要があります。このプロジェクトでは、CC1125サブ1GHzトランシーバープロジェクトで使用したレイヤースタックと同じものを使用する予定です。レイヤースタックとインピーダンスのセットアップガイドは、そちらのプロジェクトの記事でご覧ください。
このプロジェクトとサブ1Ghzプロジェクトとの違いは、今回は対称的なスタックアップを使用しない点です。最上位レイヤーの下にプレーン層が、最下位レイヤーの上に信号層があります。Altium Designerは、デフォルトでは対称スタックを使用するため、レイヤーのいずれかを変更すると、一致するレイヤーペアがプレーンまたは信号に変更されます。
この機能を無効にするには、[Board] セクションのプロパティパネルで、 [Stack Symmetry] の選択を解除します。
基板スタックと、インピーダンスルールおよびクラスが設定され、レイアウトを開始する準備が整いました。
このプロジェクトのパート1から引き続き作業を進め、コンポーネントのPCBへの転送が完了しました。このプロジェクトでは、ルームを使用していません。ルームは、多くのプロジェクトで、特にマルチチャンネルの場合とても重宝します。例えば、Current Monitor and Controllerプロジェクトは短時間で配線するためにルームを有効に使用しています。ですが、このプロジェクトでは、ルールに関連するルームがなく、Altium Designerの機能に関連するルームを使用していないので、おそらく、最終的にルームを非表示にして各ルームに基板全体を含めることになるでしょう。
基板の更新時にPCBに生成されるルームを無効にするには、[Project] ≫ [Project Options] に移動し、[ECO Generation] タブで [Ignore Differences] を選択します。
この結果、141個のコンポーネントがすべて基板に転送されます。転送後の表示を確認するのはいつも楽しみです。
前回の記事でも述べたように、個別にレイアウトするブロックとしてコンポーネントをグループ化するところから、レイアウト作業を開始します。この方法では通常、回路図シート別よりも細かくコンポーネントがグループ化されます。そのため、間隔の設定およびレイアウトがわかりやすくなります。
例えば、マイクロコントローラーの回路図では、デカップリングおよび電源フィルターのコンポーネントをグループ化し、マイクロコントローラーとそれに関連するパッシブコンポーネントをグループ化して、最後にシングルワイヤデバッグポートとリセットボタンをグループ化します。このプロジェクトのマイクロコントローラーの回路図シートには、SPIフラッシュチップも含まれています。SPIフラッシュチップは、レイアウトにおいてマイクロコントローラーのすぐ隣にある必要がないので、これも別々にグループ化します。フラッシュICをマイクロコントローラーとグループ化すると、コンポーネントのジグソーパズルを組み立てる段になって、レイアウトの選択肢が限定される可能性があります。
この場合、個別にレイアウトする小さなブロックができます。この基板のコンポーネントは140個ほどですが、この方法を、何百個ものコンポーネントを持つ基板に適用した場合、レイアウトおよび配線の課題は、圧倒的に容易になり、簡素化されます。
多数の小さいセクションごとに集中でき、それらのセクションを少しずつ組み合せると、レイアウト作業は格段に取り組みやすくなります。
すべてのコンポーネントブロックをそれぞれレイアウトしたら、次はそれらのブロックすべてを基板に収める、ほとんどジグソーパズルのような作業です。コンポーネントブロックを組み立てる一方で、セクション間に信号を通す方法に関して事前に考慮することをお勧めします。部品をきっちり詰め込むことに気を取られ、最適なサイズの導体やビア用のスペースが残らないという状況は起こりがちです。
TVSダイオードおよびヒューズの入力レイアウトは、モジュールやICとは異なり、多くの検証作業が行われましたが、これは位置決めに関する限り最も柔軟にレイアウトできる工程です。TVSダイオードは、負荷接続と電源の間にあることが重要です。それにより、感度の高い回路が損傷する前に過渡を軽減できます。大電流スパイクを、基板自体を損傷せずに効果的に管理するには、GND/リターンパスを大きくし、低インピーダンスにする必要があります。
基板のボトム面の密度は低くなっています。これは、機構的な安定性のために設置された取り付けポストのためにバッテリーホルダーの位置がかなり制限されるためです。ポストは、他のコンポーネントが基板上に配置される場所に重大な影響を与えます。そのため、基板の一部はホルダーの片側でしか使用できません。当初はレギュレーターモジュールの1つをGNSSの下に置く予定でしたが、GNSSモジュールまでのスイッチングノイズの結合が気にかかり、実のところそこには配置したくありませんでした。幸い、SIMカードソケットも基板のボトム面に取り付ける必要があり、GNSSモジュールの下にうまく収まりました。SIMカードソケットは、バッテリーおよび電力入力端子ブロックと同じ面に取り付けたいと考えました。そうすれば、筐体内に設置されたとき、保守可能なコンポーネントが同じ面に配置され、サービス技術者が簡単にアクセスできます。
また、GNSSアンテナと反対の面にLTEアンテナをに配置し、基板を使って直接放射ノイズを遮蔽しようとしました。大きな変化をもたらすものではありませんが、できるだけのことはしようと考えています。
大まかなレイアウトができたので、基板の性能にかかわる重要な配線を行いたいと思います。この基板の場合は、RFネットワーク、入力電力やLTE電力などの高電流ネット、モジュールではないシングルスイッチモードの電源などです。
配線することで、それらのネットがあるべき状態で確実に設置されるので、特別な要件がないIOネットを、先に配置されたそれらのネット周辺に配置できます。
Texas InstrumentsのTPS61089は興味深いレギュレーターです。電圧出力がチップ自体を通過するので、多くの昇圧コンバーターとはレイアウトが少し異なります。これまでと同様、納得できる反対理由がない限り、私たちはできるだけ製造業者の推奨レイアウトを採用するようにしています。通常、製造業者の推奨レイアウトを使用すれば、スイッチモードレギュレーターを安定した低ノイズで実装できる可能性が最も高くなります。
LTEアンテナにも推奨レイアウトがありますが、モジュールとアンテナの配置のためにそのレイアウトをあきらめなければなりませんでした。基板のボトム面にアンテナを配置し、トップ面にLTEモジュールを残しました。そうすることで、アンテナパッドとLTEアンテナポートパッドの距離は最短のままになります。この時点ではまだ推奨レイアウト通りですが、コイルにならって45度傾けて配置され、コンデンサーのところに基板の面を変えるためのビアがあります。
Altium Designerで回路基板のインピーダンス整合を設定するクイックガイドについて以下のビデオよりご覧ください。前回のプロジェクトでは段階的な手順を記事で紹介しましたが、ビデオを希望する読者のために今回はビデオのリンクを紹介します。
あらゆるRFと同様に、ネットワークアナライザを使用して最初のプロトタイプのパフォーマンスおよび配線を評価し、どのような調整が必要かを確認する必要があります。製造業者のデザインやリファレンスデザインの配線は、あくまで最適な設計に近づけるための最初のプロトタイプの出発点と考えてください。Microwave Studio、HFSSなどのシミュレーションツールからも、よい出発点を得ることができます。ただし、基層の実際の銅箔は、シミュレーションと比較すると常に多少のばらつきがあります。シミュレーションは完璧ではなく、製造もまた同じです。
こちらが、基板のトップおよびボトムの最初の段階の配線です。
残念ながら、回路図の入力セクションを介してすべてを接続する方法がないことがすぐに明らかになりました。
ここのポリゴンは、他のネットのビアが突き抜けるには密度が高すぎ、スペースを追加する余地がありません。
問題は、実際にどれくらいの面積の銅箔が必要か、ということです。PCBトレース幅計算機能(電流密度に関する短い記事)でこのことについて触れました。ですから、自分自身のアドバイスに従って、実際に必要な銅箔面積の計算に進みます。
私の最上位および最下位レイヤーのトレース幅は、1mm未満でなければなりません。これはすばらしいニュースです。それらのポリゴンをかなりクリーンアップすることができます。注目すべき点は、多くの低コストPCBの製造業者が17uMの内部層を使用しているということです。そのため、銅箔の外層と同じ電流を流すために内層の幅を2倍にする必要があります。
大きな銅箔領域を夢見ることは結構ですが、この場合は実装することができません。導体をもっと小さくしても十分過ぎるでしょう。
比較のため、配線が完了した後の基板の同じ領域を示します。
変更の大部分は最下位レイヤーにあるので、バッテリー充電ICに電力を供給し、必要なさまざまなレギュレーターモジュールのすべての接続を行うことができました。
この基板の完成レイアウトは、私が最初に始めたときのものと、最終的には非常によく似ています。作業を進めながらコンポーネントをあちらこちらに少しずつ動かすことになると思っていましたが、スペースの制約や特定の部品を互いに離して配置する必要があり、すべてのコンポーネントの位置を完全に変更しないで進められるオプションが実際にはそれほど多くなかったことは驚きでした。
LTEモジュールは、GNSSモジュールよりもはるかに高い強度の信号を受信するため、GNSSモジュールとそのアンテナを、基板の比較的空いている部分に配置することが重要でした。私は、スイッチドモードレギュレーターの大部分とそれに関連する電磁干渉を、GNSS周辺ではなく、LTEモジュールとそのアンテナの近くに配置したいと思っています。GNSSモジュールを備えた基板の端には、実際にはバッテリー容量モニターとCANトランシーバーしかなく、どちらもナビゲーション受信には影響しません。
最終的なGNDポリゴンを基板に配置した後は、各レイヤーのGNDが連続して切れ目がないようにするため、トレースの整理にかなりの時間を費やしました。完全なGNDプレーン層がある一方で、私は常にGNDネットを入念に検討し、デザインを多少なりともクリーンアップできる箇所がないか各レイヤーを確認するようにします。多くの場合は、トレースをある方向または別の方向に少しずつ動かすと、ギャップが開いてGNDポリゴンが広がり、さらに完全なポリゴンができます。
これは、インタラクティブなhug and push配線と組み合わせて使用することで、新しいGloss Selectedツールがその高い利便性を発揮する場面です。接続してその結果を確認するために早期に配置したトレースの一部は、その後、配線中に少なからず移動されました。トレースやそれに接続されたビアは、他の接続のためのスペースを作るためにあちらこちらに動かされました。Glossingを使用しているこれらのトレースの多くは、使用する空間が小さくなり、適切にhugされるため、さらに完全なGNDポリゴンが可能になりました。
このプロジェクトでは、基板上の密度を少なくとも80%にするという個人的な目標を掲げていましたが、ボードシェープを変更して表面積を削減するのでなければ、その目標を達成できそうにありませんでした。基板は、相変わらず同じ容量の物理空間を占めるでしょう。最終的な密度は60%になりました。これはかなりの低密度だと思います。しかしながらそのため、4層を使用することができ、この基板に設置されたスイッチングレギュレーターの数に対してより最適なレイアウトを達成することもできました。
サイズが大きくなったとはいえ、トラッカーは、私が過去に使用していた市販のトラッカーやリモート診断デバイスよりもはるかにコンパクトです。ライトタワーや発電機などの装置では、トラッカーは簡単に隠すことができます。筐体内に配置された場合は、しっかり取り付けることができるため、特に盗難の場合、取り外しや損傷の可能性を大幅に減らすことができます。
加速度計とCANデータを、(IBM Watsonなどの)ツールを使って適切なクラウドプラットフォームに送信すると、重要なコンポーネントが修理できないほど損傷する前に、必要な保守を早期に特定することが可能になります。機械学習システムは、完全な障害や故障に反応するというよりも、技術者に行動の必要性を注意喚起することができます。この機能が正しく実装されていれば、機器に対する保険費用を抑えるよりもはるかに多くの費用を簡単に節約できます。
機械学習による予防的な保守予測と、機器/設備の盗難時の迅速な復帰を組み合わせると、ダウンタイムを大幅に短縮し、機器の可用率を向上させることができます。
幸い、さらに1週間以上をかけて配線に手を加え、各所を多少なりとも改善することができましたが、ある時点で、少なくとも最初の改訂のために、設計の「完成」を宣言しなければなりません。この設計を使用し、テスト後に変更を加えた場合は、GitHubでプルリクエストを送信して、他の技術者に自分の実装を活用してもらうこともできます。
このプロジェクトは、記事の冒頭で述べたようにオープンソースなので、MITライセンスに基づいてGitHubで設計ファイルを入力できます。
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