Judy Warner: エレクトロニクス業界でのご自身の経歴を簡単に教えていただけますか?
Duane Benson: 半田ごてで初めて指に火傷をしたのが14歳くらいの頃でした。きちんとした訓練を受けた後にソフトウェア開発でキャリアをスタートさせましたが、一番好きなのは当時からずっと電子工学です。最初の頃に手掛けたハードウェアのプロジェクトには、壁の中でシロアリが木を食べる音を聞くための電子聴診器と、まだ世の中に出回っていなかった発信者IDの装置を扱いました。
Duane Benson氏、技術マーケティング
私の仕事はソフトウェアから製品管理に変わり、最終的には技術のマーケティングと執筆を担当することになりました。その間ずっと使っていたのがチップです。勤務時間以外での趣味としては、マイクロコントローラーボードや小型ロボットの構築やFPGAのテストですが、これはもう20年ほど続いています。最近では、こうしたプロジェクトやこれまでの経験を記事やセミナーのネタにしたり、技術や業界に関連する雑誌やウェブサイト、イベントでのテーマにしたりしています。
Warner: Milwaukee ElectronicsとScreaming CircuitsはともにEMS企業ですが、それぞれの沿革とユニークな点について教えていただけますか?
米国オレゴン州キャンビーにあるScreaming Circuitsの施設
Benson: Milwaukee Electronicsは、掘削装置の産業制御機器の設計と製造を行う会社として1954年に設立されました。1985年にMichael Stoehrに買収された後は、フルサービスの委託製造業者として顧客基盤を拡大させました。電子工学のバックグラウンドを持つMichael Stoehrは、顧客にさらに焦点を合わせたアプローチを製造に導入し、これによって今日まで組織が続いています。
Screaming Circuitsは、これまでとは異なる製造や高速プロトタイピングに関する新しいニーズに対応するために2003年に設立されました。ダウンサイジングが推進され、世界的な競争が高まる中、プロトタイプの完成に数週間もかけたり、予測だけに頼ったりするような古い方法では、技術者のニーズを満たすことができなくなっていたのです。
Milwaukee ElectronicsとScreaming Circuitsで大きく違うのは、注文の見積もり、受注、処理を行う方法です。Milwaukee Electronicsは、長期的な契約、予測、かんばん方式による調整に基づいて製品が製造されます。一方、Screaming Circuitsでは取引に基づいて製品が製造されます。見積もりはオンラインで行うことが可能で、基板が1つであれ、数千に及ぶのであれ、各注文が1つの個別の取引として扱われます。たくさんの再注文があるかもしれませんし、製造した基板を二度と見ることがないかもしれません。取引に基づく製造は、プロトタイプ、R&D、ハイエンドなカスタム設計、ハードウェアのスタートアップに極めて効果的です。
Warner: 設計者、作業をスムーズに進めるために基板の実装について、技術者が理解しておくべき重要なことをいくつか挙げていただけますか?
Benson: 何よりもまず、コンポーネントの極性は明確ではないことです。ダイオードだと、2つのうちのどちらかしかないため簡単だと思われるかもしれませんが、「基準」は決して基準ではありません。これは特にLEDの場合に当てはまります。製造業者によっては、基準が陰極の場合もあれば、陽極の場合もあれば、LEDの場合もあります。1つのグループに属する1つの製造業者が、製造工程の陰極と次の工程の陽極で同じマーキングを使うこともあります。実装パートナーがこれを簡単に見つけられると想定すべきではないでしょう。
元のフットプリントがわからないのなら、そのフットプリントを信用してはなりません。クラウドソーシングされるフットプリントは結構かもしれませんが、人的ミスが発生します。0度の回転方向がIPC標準と一致しないことは多々あり、この場合は自動化装置にエラーが生じます。また、一部のコンポーネントにはピン配列の異なるバリアントがありますが、フットプリント設計者がこれに必ず気付くとは限りません。最も安全な方法は、ピン配列、パッケージ、方向、ペースト、マスク、極性/ピン1のマーキングを再確認するまで、フットプリントを信用しないことです。
曖昧さは、品質とスピードの敵にほかなりません。高速プロトタイピングとオンデマンドの製造では、わずかな時間も無駄にできません。多くの場合、曖昧なマーキング、はっきりしないデータ、不完全なドキュメントは品質の欠陥や出荷の遅れにつながります。
Warner: SMTの実装では異常の原因の65%以上が半田ペーストですが、製造量の拡大と信頼性の向上についてはどう対応されていますか?
Benson: Screaming Circuitsでは、半田ペーストが原因で発生する異常の件数がとても低いですが、これは経験と技術に関係しています。私たちは実にさまざまな基板を製造しているため、実質的にすべての新しいコンポーネントパッケージがどうすればうまく機能するのかをすばやく特定できなければなりません。また、基板で最も難しいコンポーネントでは、ステンシルプリンターとペーストジェットプリンターをうまく使い分けています。適切なリフロープロファイルの選択やペーストカットアウトのカスタマイズもかなり上達しました。そのため、半田ペーストの問題が大幅に減っています。
Warner: 偽造部品の使用についてはどの程度懸念されていますか?また、リスクの軽減にあたってどのような対策をとられていますか?
Benson: グレーマーケットには接触せず、サプライヤーを慎重に選ぶようにしています。これまで、偽造部品にはほとんど遭遇していません。これは、購入部門とサプライチェーン部門の精力的な取り組みのおかげです。サプライチェーンについては、信頼できる相手としか取引をしません。評判の悪いサプライヤーを選択して、リスクを負う価値はないでしょう
Warner: 『Circuit Talk』という小さな定期刊行物を執筆されていますが、発行に対するモチベーションは何でしょうか?これまで、読者からはどのような反応がありましたか?
Benson: この20~30年で、電子設計は大きく変わりました。エンジニアリング部門のサポートスタッフの数も大幅に削減されています。また、引退や忙しすぎることが原因で、年配の技術者は以前のように指導者としての役目を果たせなくなっています。一般的な設計技術者は、回路図の設計以外にも片付けなければならない仕事がたくさんあります。
Screaming Circuitsでは、さまざまなコンポーネントや技術を目の当たりにできますが、これはそこから学び、エンジニアリング業界を教育できる絶好の機会です。設計者たちが毎日のようにミスをするのは、彼らの落ち度ではなく、レイアウトやライブラリー管理、ドキュメントの作成についてきちんとした訓練を受けていないからです。こうした問題は緩和できるはずです。私は自分の知識を出来る限り伝えていくことを使命にしています。これまでに学んだことを設計者たちに教えることで、彼らの仕事がスムーズになり、ひいては私の仕事もスムーズになります。
Warner: EMSビジネスで最も好きな部分と最も嫌いな部分は何でしょう?その理由もお聞かせください。
Benson: 最も嫌いな部分ですか?これは後回しにしましょう。思い付きそうにありませんので。とはいえ、一度だけ製造は退屈だと思ったことがあります。でも、おそらくその一度だけで、ここに入社してからそれ以外で思ったことはありません。それが本当に大好きなところです。孵化したばかりのウミガメの赤ん坊が安全に海に到達できるように、無線で接続された動作検知器を巣に設置しているお客様の案件を手掛けたこともありますし、1915年にアインシュタインによって予言され、2015年についに観測された重力波の検出用の基板を製造したこともあります。基板は宇宙と海底、そしてその間にあるいろいろな場所で使われています。来年、世の中に出て行くものが、今、私たちの手元にあるのです。Screaming Circuitsは、そういった素晴らしい未来に触れています。他の仕事をするなんて想像もできません。
Warner: 私も想像できません!貴重なお話をありがとうございました。
Benson: こちらこそ、ありがとうございました。