ロックスターのようなPCB設計者でありシグナルインテグリティーの専門家であるリック・ハートリー氏(Rick Hartley)

Judy Warner
|  投稿日 2017/07/19, 水曜日  |  更新日 2020/03/16, 月曜日

expert advice

 

 

ワーナー: またお出でいただきましてありがとうございました、リック。では今回もよろしくお願いします。私たちが最初に会ったとき2人とも強く感じていたのは、もっと多くの設計者が基板サプライヤーを訪問して基板の製造過程を理解するべきだということでしたよね。今日は、技術者やPCB設計者に対してどのようなアドバイスをいただけるでしょうか?

 

ハートリー: あなたもそう感じておられたことが興味深いですよね。私が初めてプリント回路設計者になった77年から78年頃のことですが、会社が委託していた製造技術者の1人が、私と、下請け会社のもう1人のプリント回路設計者を座らせて説明してくれました。「会社の技術者たちは、プリント回路設計者になる道を選んだ君たち技術者2人を大切に思っている」と言いました。私たちは微笑みながら「ええ、それは分っています」と頷きました。すると彼は私たちを見て言いました。「君たちは、回路や回路の動作については理解しているが、製造については全然分っていない。君たちがこれほど分っていないということは、驚くべきほとだ。君たちが設計するものは、私たちには実際に作れないものばかりだ」。私のプライドは叩きのめされました。プライドが床に投げつけられたどころではなく、床にめり込むほどのショックでした! このショックから立ち直るのに文字通り1週間も掛かったほどです。でも、よくよく考えてみると彼らの言うことが正しいことが分りました。私は製造については何も知りませんでした。会社は、ノーム・アイナーソン(Norm Einarson)氏を雇うことにしました。ノーム・アイナーソン氏は、当時プリント基板の神様と言われた人物であり、このインタビューをお読みになっている方で年配の方であれば皆さん懐かしく思い出される名前ではないでしょうか。彼は、本当に設計というものを理解している製造技術者でした。彼が会社に来てくれた期間は1週間です。電気工学部門を含む設計部門の全員に対し、この1週間の研修期間の全期間にわたって出席することが義務付けられました。彼は、設計者が製造に与える影響と、製造が設計者に与える影響を教えてくれました。

 

ワーナー: 皆さんにとっては本当に貴重で素晴らしい機会だったんでしょうね。

 

ハートリー: ええ。私がこれまでに受けた研修の中では最も充実した1週間でした。それ以降、私は、製造業界での方法の前年からの進化、新技術、予想される新技術などを知りたいと思い、製造関係の雑誌を複数購読しています。製造部門で採用されている工程を知らずして回路基板を正しく設計することはできません。

 

ワーナー: 私も、率先的にそのような方向で取り組んでくれる設計者が増えてくれることを願っている製造技術者が大勢いることを知っています。本当に大事なことですよね。

 

ハートリー: ええ、そうなんです。私が言いたいことの一つもそのことで、電気工学やプリント回路の設計者なら、あるいはプリント基板設計での意思決定に何らかの形で関与する担当者なら、製造工程を理解しておく必要があるんです。基板の製造、組み立て、試験について理解するだけでなく、この3つの工程に対して設計者が与える影響も理解する必要があります。

 

ワーナー: まったくそのとおりです。私もエレクトロニクス業界の製造/組み立て部門出身ですので、その点は同感です。問題や遅延が発生した場合、事前にちょっとした打ち合わせができていれば容易に防ぐことができたのにと思える経験は、私にとっても日常茶飯事でした。

 

ハートリー: もう一つ提案したいのは、PCB設計者と電気工学技術者がもっと密に連携作業したらどうかということです。つまり、お互いの作業内容を理解し合うということです。基板設計を複雑にしている要因は本当は技術者たちのやり方にあることを技術者が知る必要があると思うのですが、私には、彼らが実際にそう考えているようには思えません。技術者がうまく連携して作業できるようにするためには、お互いの分野を良く理解する必要があります。互いの理解が足りないと丸投げ状態になってしまい、「回路図がこうなってるんだからそちら側で解決すべき問題だろう」というようなことになってしまいます。これではうまくいくはずがありません。そのことを私は何年も前に学習しました。私がL-3や通信業界で一緒に仕事をした技術者のほとんど、あるいは70年代後半や80代の技術者は、私とうまく連携作業できましたし、私も彼らとはうまく連携作業できるよう努めました。この記事の発表後に彼らが読んだら、きっと頷きながらこう言うでしょう。「そうだ、俺たちの時代は連携し合ってうまくやったもんだ」と。そうなんです。私たちはお互いに理解し合えるんです。そして、それが重要なことなんです。

 

ワーナー: 最近では連携作業ということがあまり見られなくなってきているように思えます。2つの領域での連携作業がないと、両者のストレスも溜まりますよね。

 

ハートリー: そう、そのとおりなんです。「俺たちとあいつら」という状態になってしまい、決して健全な状態だとは言えません。

 

ワーナー: そうですね、絶対良くないですよね。さて、では次に3つ目のアドバイスをお願いします。リック。

 

ハートリー: プリント回路のレイアウトは、絶対に、ICのアプリケーションノートに書いてあるような方法では行うなということです。

 

ワーナー: 今年のIPC APEXでもそう言われていましたよね。あれは可笑しかったです。

 

ハートリー: ええ、本当にそうですね。私は自分の講演ではいつも最初に、1993年にリー・リッチー(Lee Ritchey)氏が彼の講演で引用した言葉を紹介します。彼のあの言葉を聞いたとき、私は嬉しかったですね。何しろそれまでは、そんな考え方の人間は世界で私一人しかいないと思っていましたから。本当に知識のある人があのようなことを言ってくれたのですから実に嬉しかったです。リーはこう言ったんです。「ICのアプリケーションノートについては、正しいということが実証されるまでは、間違っていると思っていなければならない」とね。彼は別に「アプリケーションノートが間違っている」と言ったわけではなく、「かなりの数のアプリケーションノートは、アプリケーションノートが正しいと決めつけないほどユーザーが賢いと想定している点が間違っている」と言っているのです。NXP QualCommのアプリケーション技術者である友人のダン・ビーカー(Dan Beeker)氏は、そのことを確信しており、自身の講演の中で次のように述べています。「アプリケーションノートに書かれている回路についてのアドバイスは、おそらくは正しいでしょう。ですが、アプリケーション技術者は通常、基板の設計については理解してらず、アプリケーションノートを書く際に固体物理学に基づいて記述しているわけではないため、GNDプレーンを3つの要素に分割し、1つの要素をここに、もう1つの要素をここに、もう1つの要素をあちらにとか、まったく意味のない位置でデカップリングを推奨したり、コーナー部の角度を90°にしないように、といった具合に書いてしまうわけです」。アプリケーション技術者は、これらのノートを書いてはいるものの固体物理学のベースがないのです。また、私は、すべてのアプリケーション技術者が間違っていると言っているわけではありません。私が言いたいのは、アプリケーション技術者が書いているアプリケーションノートの多くが、回路基板レイアウトのアドバイスについてはあまり出来が良くないということなのです。自分が信じるものについては慎重でなければなりません。

 

ワーナー: 実に興味深いですね。私は、あなたが自身の講演の中でその言葉を引用されて私が笑ってしまったのを憶えています。私たちは誰もがデータシートに頼っていますから、それを考えると、このことは非常に直観に反することに思えますね。

 

ハートリー: ええ。タイミング図や最大電流などが示されているデータシートの情報は通常、正しいです。通常、こういったデータは良いデータです。あと、私がデータシートで公開して貰いたいと思うものの一つが、立ち上がり時間と立ち下がり時間です。適切に回路を決定する上で技術者や設計者が知る必要がある最も重要な情報の一つが、この立ち上がり時間と立ち下がり時間です。実際、回路内でクロックが駆動される周波数であるクロック周波数が、他の要素の周波数に不具合を起こすような悪影響を与えることはほとんどありません。クロック周波数がEMIやシグナルインテグリティーの問題に悪影響を与えることはほとんどないのに対し、立ち上がり時間と立ち下がり時間は、EMIやシグナルインテグリティーの問題にはるかに大きな影響を与えます。問題なのは、立ち上がり時間と立ち下がり時間があまり明確でないことです。これらを明確に把握するのは容易ではありません。ただ、少なくともメーカーが立ち上がり時間と立ち下がり時間の最小値と最大値やワーストケースの条件を公開してくれれば、技術者が、レイアウトを行う際に、あるいは回路やプリント基板を設計する際に、あるいはどの周波数が重要かを計画する際に、特定のICで想定される結果を知ることができます。

 

ワーナー: メーカーがこれらの情報をデータシートに公開しない理由は何だと思われますか?

 

ハートリー: 明確に把握するのが難しいからです。

 

ワーナー: それは環境からの影響のためですか? また、そうでないならば、明確にできない理由は何ですか?

 

ハートリー: 立ち上がり時間と立ち下がり時間は、負荷などの要因からだけでなく、温度変化の影響も受け、条件次第で速くも遅くもなります。基板内の損失係数も、立ち上がり時間と立ち下がり時間に影響を与えます。これらの情報はIBISモデルやSPICEモデルで得ることができ、これらのモデルはASCII形式になっていますので、簡単に読み込むことができます。たとえばHyperlynxなどのシミュレーションツールでモデルを使用する場合、立ち上がり時間と立ち下がり時間を与えないと、伝送線路の挙動を正確に決定できません。このようなツールがありますので、調べてみてください。

 

ワーナー: 面白いですね。そのツールのことはまったく知りませんでした。オーケー。では次の質問に行きましょう。あなたがEDAツールメーカーにこれまでと違うものを望むとすれば、それは何ですか?また、現在PCB設計者にとって役立つ要素や障害になっている要素は何でしょうか?

 

ハートリー: それは良い質問ですね。私が思うに、これまで使用したことのあるEDAツールはいずれも、一度憶えてしまえばかなり強力なツールです。何年も前になりますが、Incasesという企業が作った「Theda」というツールを使ったことがあります。これがまた、おそろしく使いにくくて憶えるのもものすごく大変なツールだったんですが、憶えてしまうとすごく強力なツールだったんです。MentorのBoard Stationも同じでしたね。憶えるのが大変だったんですけどすごく強力で・・・。

 

オリジナルのP-CAD(Master Designer)も強力でした。特にこのツールはPCベースの初めてのツールでしたから。でも、P-CADについては私はそれほど使いにくいとは思いませんでした。Pads PCBが出たのは1985年でしたが、これは初めから非常に使いやすいツールだと思いました。これらのツールはどれも、憶えてしまえば強力なツールでした。問題は、これらの学習曲線とユーザーインターフェイスがまちまちで大きく異なることです。これらのツールのなかには、プリント回路設計者の作業内容を理解している人が設計したものもありましたし、プリント回路設計をまったく知らないプログラマーが設計したものもありました。一般にプログラマーが設計したものは使いにくいのですが、これはやはり私たちプリント回路設計者に何が必要なのかを分っていないからです。こういったタイプのプログラマーには、ツールのユーザーインターフェイスや使い勝手の改善に向けて何ができるか、ちょっと考え直して貰いたいと思っています。

 

1990年代には、TangoがP-CADを買収して完全に再構築し、Accelと改名しました。再構築後のAccelの機能は、P-CAD Master DesignerよりもPads PCBに似たものになって使い勝手が大幅に改善されており、見事な再設計だったと言えるでしょう。私が通信業界に移った頃、通信業界ではAccelを使用していました。それまでAccelの使用経験がまったくなかった私でも、マニュアルを見ながら3日間取り組んだだけで完全にマスターできました。このツールはその後にまた改名され、最終的にはP-CAD 2001、2003などとなりました。このツールの機能の多くが、現在のAltiumにも採用されています。

 

Accelは、驚くほど憶えやすく、Pads PCBと同じぐらいに簡単でした。Board Stationは憶えるのが大変で、6か月経ってもまだ頭を捻っているような状態でした。現在、このBoard Stationはなくなって、MentorのXpeditionに組み込まれ、良い製品になりました。私はMentorやAltiumを始めとする現在のさまざまなツールが好きですが、もっと憶えやすく使いやすくなるように願っています。Cadenceのツールについては、私は使用したことがないためコメントできません。

 

ワーナー:  貴重な情報をいただき、ありがとうございます。ハートリーさんはツールを買収した大手OEMで仕事をされておられたとのことですが、ライセンス供与形態についてはどのようにお考えですか? また、ライセンス供与形態から何か影響を受けたことはありますか?

 

ハートリー: L-3ではライセンス供与に関する事柄もすべてIT関係のスタッフが担当していました。それ以前には、私のライセンスに関する事柄は私自身で処理していました。いくつかのツールは容易に立ち上げて使用できライセンスも容易にインストールできましたが、ツールによってはひどく使いにくいものもありました。これも、考え直す必要がある点だと思っています。メーカーが所有権に関連するものを保護しようとしており、その必要があることも分ります。ただ、一部のメーカーがライセンスを容易に使用できるよう対処しているのに対し、他のメーカーではライセンス供与の構造が非常に複雑で使いにくくなっていますので、もう少し考え直していただきたいと思います。

 

ワーナー: 私もそれは適切なアドバイスだと思います。最後にもう一つ。ハートリーさんはこれまでIPC設計者委員会の理事会のメンバーを務めておられますが、どのようなことについてどのように関与されてきたのか少しお聞かせ願えますか? また、地域の設計者協会が進歩することの価値や課題についてもコメントがありましたらお聞かせください。

 

ハートリー:  分りました。私がIPC設計者委員会の理事会に入ったのが1996年か97年ですから、もう20年ぐらいになります。私を採用したのはゲイリー・フェラーリ(Gary Ferrari)氏です。ゲイリーと私は93年のPCB Westで会って、すぐに意気投合しました。彼らが設計者協会を立ち上げたとき私はそれについて興味があったため、私たちの地域での立ち上げ予定はいつなのか彼に聞いてみたところ、彼やIPCのその他のメンバーが私に情報をくれました。彼は深く関わってくれ、大いに助けてくれました。UP media(プリント回路の設計、製造、組み立て分野の雑誌)のピート・ワッデル(Pete Waddell)氏も大いに助けてくれました。ピートは、オハイオ州コロンバスの半径100マイルぐらいの地域の全員、基本的にはこの地域のUP mediaの読者全員に、最初の会員募集記事を送ると申し出てくれたんです。

 

ワーナー: ピートは設計の背景知識を持っていなかったんですか?

 

ハートリー: いえいえ。ピートは設計者だったんです。最初の設計者協会はアトランタにありました。ピートはこの協会に属しており、その価値と必要性を良く理解していました。いずれにせよ、私も長い間委員会に関わってきています。93年から94年頃には、オハイオ州の中心部と南西部をカバーする設計者支部を立ち上げました。その頃はちょうど、あらゆることが始まろうとしていた頃なんです。私たちの設計者協会は、およそ12年間、強力な機能を発揮しました。私たちのモデルはサンディエゴやオレンジカウンティのモデルとは違っていたため、基本的には相互に学習し合いました。私たちの協会には約30名から40名の正会員がいたのですが、ほぼ12年間は毎月会議を開いていたものです。そういった会議のうち年2回はパーティーですが、あとの10回は教育目的のもので、基本的には自分たちの知っていることを教え合いました。会員には、製造、電気工学、設計などいくつかのグループがあり、あらゆる業種のメンバーが集まっていました。

 

毎年1回か2回の会議では外部から講演者を招いて1日セミナーを行うことを予定していました。講演の場合にメンバーが払う費用もわずかでしたので、誰でもが参加できました。非会員の料金は2倍となっていました。基本的にはある程度の少額を全員が負担する方針でしたので、講演者には専門的知見と時間に見合う講演料を払うことができました。12年ほどすると、相互に情報交換する話のネタもなくなってきて、設計者協会はおおむね役割を終え、2005年頃からは存在していません。

 

地域的な設計者協会のメリットは、人々に学習のチャンスを与えられることです。PCB Westに行けない人、IPC APEXに行く余裕や時間がない人、あるいは私のように100冊も本を買いに出かけない人にとっては、チャンスです。1か月か2か月に1度の会議に出席して技術者や基板設計者としての人生における日常的な競争に役立つと思われるものを何か学習できるということは、地域の設計者協会が実際に提供できる大きな価値です。教育は計り知れぬほど貴重なものです。

 

ワーナー: 私は、長年にわたる人脈構築も非常に貴重なものであると思いました。

 

ハートリー: そのとおりです。私にとっても人脈は絶対不可欠なものであり、成功への鍵を握るものです。オンライントレーニングを見たいというユーザーも大勢います。私もオンライントレーニングは好きですが、誤解を恐れずに言えば、同じ場で実際にお互いに会うことに代えられるものはありません。お互いに顔を合わせてトレーニングするからこそ、トレーニング中やトレーニング後に人脈ができていくのです。仰るとおり、人脈の価値は非常に大きなものです。私の経歴は、積極的に自分で作った実際の出会いからさまざまな恩恵を受けており、その価値は数字では表せません。

 

ワーナー: そうですね。業界イベントでの実際の出会いに代わり得るものはありませんね。こうしてあなたにお会いするという幸運が得られたのも、そのお陰なわけですからね、リック。

 

ハートリー: 確かにそうですね。こうして私たちが今日この場にいるわけですからね。

 

ワーナー: ええ。私もあなたと出会えて非常に幸運だと感じています。時間を割いていただき、PCB設計と電気工学の分野でのあなたの輝かしい経歴や、この複雑なテーマに関して苦労しながら手に入れられた知識を共有させていただいて、本当に感謝しています。

 

ハートリー: いいえ、こちらこそありがとうございました、ジュディ。

筆者について

筆者について

Judy Warnerは、25年以上にわたりエレクトロニクス業界で彼女ならではの多様な役割を担ってきました。Mil/Aeroアプリケーションを中心に、PCB製造、RF、およびマイクロ波PCBおよび受託製造に携わった経験を持っています。 また、『Microwave Journal』、『PCB007 Magazine』、『PCB Design007』、『PCD&F』、『IEEE Microwave Magazine』などの業界出版物のライター、ブロガー、ジャーナリストとしても活動しており、PCEA (プリント回路工学協会) の理事も務めています。2017年、コミュニティー エンゲージメント担当ディレクターとしてAltiumに入社。OnTrackポッドキャストの管理とOnTrackニュースレターの作成に加え、Altiumの年次ユーザー カンファレンス「AltiumLive」を立ち上げました。世界中のPCB設計技術者にリソース、サポート、支持者を届けるという目的を達成すべく熱心に取り組んでいます。

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