一貫性のあるPCBデータライブラリを構築する方法

Judy Warner
|  投稿日 2019/05/17, 金曜日  |  更新日 2020/12/16, 水曜日

 

Judy Warner: お話を始める前に、「ライブラリ」とは何か、またそのあらゆる領域で必ず必要となることについて明確にしていただけますか?

 

Cherie Litson: 技術者の多くは、「ライブラリ」を、何らかの形のデータベースに関連付けられた、シンボルファイルやフットプリント(デカル、ランドパターンなど)ファイルとして定義します。データベースを用意する必要すらありません。適切な回路図のシンボルファイルやフットプリントファイル、それらを関連付ける手段(属性、パッケージライブラリなど)さえあればよいのです。自分でライブラリを定義するのであれば、これでうまくいきます。

これは単純なライブラリですね。出発点としては上々です。「企業用ライブラリ」の場合は、考慮すべきことが多々あります。この方法はどちらかというとシステムライブラリの設計に適しています。PCBライブラリは、多くの場合、仕入れ、DFM、製造、試験、機構、およびその他の部門やシステムとリンクしている必要があります。

私は、長年にわたって、ワシントン州ボセルのSonoSiteやケントのDCI、レドモンドのMicrosoftといった大手企業で、ライブラリシステムを構築する多くの機会に恵まれました。状況や企業に応じてさまざまなコンポーネントライブラリを作成していくうち、うまく機能することもあればしないこともあることがわかってきました。

いずれの場合でも、コンポーネントライブラリシステムの構築において最も困難な作業は、構築の賛同を得ること、そしてシステムを使用する必要がある全メンバーへのトレーニングの実施です。これらができなければ、どんなにすばらしいシステムも機能しません。

 

Warner: 設計者にとって、部品ライブラリおよびデータ管理における最大の問題は何ですか?

 

Litson: ライブラリシステムの観点でいえば、矛盾のないプランを用意することです。どのようなタイプのデータベースを構築するか、つまり使用すべきデータベースはどのようなタイプか、です。1対1か?1対多か?多対多か?

独立したライブラリの場合、最大の問題はクライアントが持っていない新しい部品の作成です。あるいは、ライブラリが全く存在しない場合です。その場合はライブラリを構築する必要があり、多くの時間を要します。

最悪の部品タイプは、トランジスタパッケージです。製造業者は、標準的なサイズやピンの配置にこだわることを嫌がります。ですから、設計者は、似たようなパッケージがすでにある場合でも、結局新しいパッケージを作成しなくてはならないのです。

私が構築するライブラリの多くは、パッシブコンポーネントに関しては1対多のタイプです。アクティブコンポーネントおよびICは1対1になります。

2つ目の問題はフットポイントのコントロールです。次のような自問すべき多くの可変条件や問題があります。

·       どのレイヤーに作成されますか?

·       サイズはどれくらいですか?

·       矛盾はありませんか?

·       開発している製品のクラスのデータシートおよびIPCフットプリントごとに間違いはないですか?

·       高さは正確に.05mm(2mil)ですか?

·       シルクスクリーンを使っていますか?シルクスクリーンを使用している場合、部品の下部や半田づけ可能な銅箔領域に配置しないようにしましょう。

·       貼り付け、ソルダ―マスク、カーボン、硬質金などの特殊な機能が必要ですか?

 

重複したフットプリント(2つの異なるパッケージに適合する1つのフットプリントであり、使用される部品のいずれにも不適切)が全くないことが重要です。これは製造環境においては非常に危険です。手はんだ付けされているテスト基板の場合は例外にできますし、またプロジェクトライブラリではリスクを軽減できますが、システムライブラリではそうはいきません。

その他の主な問題としては、以下の方法で回路図シンボルを確実に標準化することです。

·       ピン番号の付与

·       ピン信号の名前付与/ラベル付与

·       フットプリントと一致するピンの数(マウントするピンも含む)

·       機械的部品ではなく論理的部品を表すシンボル。配線図で使用します。

·       必ずピンとともにグリッドを表示してください。グリッドの表示により、回路図の接続が保証され、変更が容易になります。

 

データ管理コントロールについては以下のようにします。

·       データ部品番号は絶対に再使用しないこと。新しく作成しましょう。

·       データベースを最新状態に維持すること。

·       リソースを大量に消費しないリクエストシステムを用意すること。ボトルネックを発生させないようにします。

 

Warner: 設計者たちが、これらの可変条件を全てコントロールできるのは驚きですね!今日の市場では、ライブラリおよびデータ管理の問題を増やす新たな条件としてはどのようなものがありますか?

 

Litson: データ管理のための財源は最大の問題です。企業はこの機能の重要性を理解する必要があります。

中小企業のオーナーの場合、財源は特に重要です。「時は金なり」と言いますが、オーナーは自身の時間を投資する必要があり、コンポーネントの管理にあたってはこれはお金へと変わるのです。中小企業の場合、大規模なライブラリを構築できない可能性があります。ただし、「既製」ライブラリはそれほど精密でないので使用するのは危険です。また、既製品は追加や変更が難しい場合が多々あります。

反対に、大企業では必ずしも専門の人員を専任させる必要はありません。主な障害物には次のようなものがあります。

·       IT サポート。ライブラリを企業のシステムに接続させる優秀なプログラマーを含みます。

·       コンポーネントエンジニアリングサポート。

·       フットプリントの作成経験がある人員(初心者の場合は、少なくともチェックプロセスがあってきめ細かな指導を受けられること)。

·       製造業者またはDFMからのフィードバック。

·       レイアウトからのフィードバック。

·       リードタイムおよび入手可能性についての仕入れ担当との交渉。

·       部品リクエストの管理。

·       新しい部品追加のためのシステム。

 ·       古い部品の交換のためのシステム。

 

Warner: コンポーネントライブラリとデータ管理はPCB設計プロセスの不可欠な一部です。しかし小規模な設計サービスを提供している、あるいは小規模な設計チームを率いている場合、一元的なシステムを導入するよりジョブごとに小規模ライブラリを作ったほうが簡単です。この考え方は良いのか悪いのか、その理由を教えてください。

 

Liston: ええと、それは含みのある質問でしょう。よいアイディアとも悪いアイディアとも考えられます。小規模な設計サービス事務所はデータベースライブラリを管理する時間はないという点では、よい考えだと思います。また、各企業のレイヤー設定は、必ずしも同じ標準ではありません。ですから、ある企業のために作成する部品は、別の企業のものとは異なります。

現実を認めましょう。クライアントはサービスプロバイダーにお金を支払って、1年に50~200件ほどのPCBと数件の異なる基板を作成するためのライブラリを構築することを望んでいません。場合によっては、クライアント企業は既にライブラリを構築しています。企業は、サービスプロバイダーが使用する「プロジェクトライブラリ」を作成する簡単な方法と、サービスプロバイダーがデータベースに追加するためのレビュー用に新しい部品を送信できる方法だけを必要としているのです。

また、他の作業者が関与する場合はある程度の一貫性があると役に立つので、ジョブごとのライブラリはよろしくありません。最低限、シンボルや部品を作成する標準的な方法を用意し、それらの基準をドキュメント化しましょう。また、それらが一貫していることをチェックするシステムも用意する必要があります。これは、企業にライブラリも基準も全く用意されていない場合に有効です。ライブラリ設計者は、自身のライブラリを使用することで時間を節約できます。

 

Warner: Cherieさんは何年間もPCBの設計やEPTAC IPC CIDのトレーニングコースで他の設計者に講義をしてきましたね。自分で設計サービスおよびコンサルティング会社を所有していることから、Cherieさん個人にとって最もうまく機能したのは何ですか、また受講生たちには何を推奨しますか?

 

Litson: 最初に、その企業が必要としているもの、既に持っているものを明らかにして、その企条件の範囲内で作業をします。

たいていの場合、私は設計と同じ場所に「プロジェクトライブラリ」を作成します。場合によっては、その企業のデータベースより配置された部品から作業を開始し、作成が必要なものも格納します。私は、これが最も安全な方法だと感じています。企業のデータベースは、意図せずして、あるいは無意識のうちコンポーネントの属性やソフトウェアを変えてしまうマネジメントの決定によって変更される可能性があるからです。

 

Warner: 古くなっていない、またはずっと割り当てられたりしていない部品で構成された「クリーン」なライブラリを維持するには何が役立ちますか?

 

Litson: まず初めに、現実的になりましょう。全ての部品はいつか時代遅れになります。企業が倒産して、その部品を入手できなくなる可能性があります。データベースに適切な代替部品がなければなりません。それらの代替部品は、形状(Form)、適合(Fit)、機能(Function)の3つのFが適合している必要があります。古い部品を探すには、さまざまな方法があります。いずれかの方法を選んで探します。リードタイムが長い場合は部品リクエストに照合する必要があります。それがある状況で機能する唯一の部品である場合は、理由を提出する必要があります。こう言った場合はCE(component engineer:コンポーネント設計者)がサポートできます。CEはシステムに入力する必要があります。

私個人としては、もう存在しないコンポーネントがリスト化されているプロジェクトがあったら、EE(electronics engineer:電子設計者)に戻します。別のコンポーネントを探すのはEEの責任になります。依頼された場合は、私が調査して提案を提示します。ただしそれは、私がEEでもあるからです。最終的には、製品の設計に対する責任はクライアントが負います。

 

Warner: MPNに関連付けられていない汎用コンポーネントの使用に関するリスクにはどんなものがありますか?

 

Litson: 最大のリスクは、汎用コンポーネントの不適合です。ただしそれは、設計者が何を「汎用コンポーネント」と呼んでいるかにもよります。多対多データベースには汎用シンボルと汎用フットプリントが格納されています。データベースの仕事は、それらを正しく結合させることです。異なる値を持つという理由だけで、複数の「抵抗」シンボルを作成する必要はありません。それがデータベースの目的です。データベースの1つのシンボルが、MPN、サプライヤーPN、説明、値、注釈、フットプリントなどを表します。

確かな経験則によれば、適合、形状、および機能を満たす代替部品が必ずあります。1対1ライブラリには汎用シンボルと汎用フットプリントは格納されません。私は、パッシブコンポーネントの汎用図面が格納された回路図シンボルとフットプリントのライブラリをそれぞれ用意しています。ですから、毎回それらを設計し直す必要はありません。ソフトウェア会社が供給するパッシブシンボルの多くは、正しくないことが多いので、私は好きではありません。私は、製図者としてキャリアを始めたので、シンボルがどのようであるべきと考えられているかわかっています。(私はこのことをCIDで調べています。)また、同タイプの極性を持つ部品(ダイオード、コンデンサー、およびトランジスタ)の逆の極性の部品にピン番号が割り当てられたシンボルライブラリを見たこともあります。

この業界の問題の1つに、OEMは1対1データベースを開発しているのに対して、企業は多対多データベースを好むということがあります。この2つのタイプのデータベースの変換は非常に大変です。もう一つの問題は、独自バージョンの部品を作成する製造業者です。独自バージョンの作成は、製品を作っている企業にとっては困ったことです。指定できるコンポーネントのFF&Fの容量が限られるからです。トランジスタは常にこの制限を超えています。コネクタは、このために最近評判を落としています。主に携帯電話業界での競争が原因です。私はこれを「自分のつま先の撃ち方」(足ではありません)と呼ぶことがあります。

 

Warner: ECADとMCADの境界線が以前より曖昧になっているように見えます。設計における機構関連の関係者と最も円滑に協力するためには、どのようなツールあるいは実践が役立ちますか?

 

Litson: 単純に、期待することを伝えるだけです!!!! 本当に!これはツールの仕事ではありません。EE、ME(mechanical engineer:機械設計者)、および設計技術者を集めて相互に期待を持たせるのは企業の仕事です。その後に、コラボレーションをサポートするようツールを設定できるのです。さらにその後、製造、テストEE、PCB設計者、仕入れ担当、DFM、プロジェクトマネージャー、その他メンバーへの考慮事項を加える必要があります。構築できない製品を設計することは可能です。私たちはそれを、芸術家の名前をとって「エッシャー」と呼びます。

私は必ず機構関係の入力を求めます。MEに会えるなら、ますます好都合です。私の目的は、彼らの仕事をもっと簡単にすることでもあります。EE、ME、およびDE(design engineer)が合意すべき基本事項を挙げます。

1 – 位置、高さ、半径、許容差などの定義に使用する文字数をコントロールします。

·       最大で、インチ単位系で10進3桁、メートル単位系で10進2桁をしっかり守ってください。

·       PCBの許容差は製造場所によって異なります。コントロールされた環境はありますが、ほとんどのPCBは多くの手作業で最小限にコントロールされた工場で、しかも通常はクリーンルームではない部屋で組み立てられます。

·       よく考えてグリッドを選択しましょう!できるだけ頻繁に考えて選択してください。私は .05mm/2milをよく選択します。この値は変換時の変数が最も少ないので、コンポーネント作成や配線の際、誰もが混乱せずにすみます。いずれにしても、ほぼ、製造が可能な一般的な許容差の限界です。

2 – 共通の原点を設定し、場所を変えないようにします。

·       機構コンポーネントの位置合わせが簡単になるように原点のデータを設定します。これらの位置はできるだけ整数に近い場所にして、誰でも簡単にチェックできるようにします。

3 – 誰もが使用したいと思う交換プロトコルを確立します。

·       社内では、サーバー上の共有領域の設定がうまく機能します。

·       また、各ソフトウェア機能と、どの交換パラメーターが全員にとって最適に機能するかを見極めます。

·       独立した契約業者として、私はレイアウトのファイルをチェックのためMEに送り、MEはそれを私に返送する必要があります。一般的なインターネットの場所は必ずしも安全ではなく、VPNは低速です。

4 – 3Dはどれだけ必要ですか?

·       単純な形状で容認できますか? あるいはコンポーネントごとに3Dモデルが必要ですか?

·       既存の3Dモデルがない場合、誰が3Dモデル作成の責任を負いますか?

·       コンポーネントの3Dモデルは、PCBのフットプリント内に格納されなければなりません。そうでないとモデルがリンクされません。モデルはリンクされる必要があります。

機構コンポーネントは、何回も回路図に追加されて独自の非電気的フットプリントが割り当てられる必要があります。これは、PCBに追加される多くの非電気的フィーチャーにも共通しています。そのコンポーネントが回路図にない場合は、ネットリストの更新により誤って削除された可能性があります。

ネットリスト更新の際は、それらのコンポーネントが2つのBOM(MEとEE)にリストされていないことを確認します。

5 – 誰が何をいつ行うかを定義します。

·       ドキュメント化は、何が必要かを把握しているメンバーの手で行われる必要があります。

·       製造およびアセンブリの担当者はそれらの設備で何が必要かをわかっている必要があります。私の最新のブログで「Documentation for Output - Who Needs What(出力用ドキュメント - 誰が何を必要か)」をお読みください。

·       企業によっては、MEやDEがドキュメントを作成します。いずれのグループも、電気物理学、製造プロセス、それらの各製造施設に必要なIPC仕様を理解する必要があります。各グループは、同じファイルセットを持ちません。

·       コンポーネント管理は、コンポーネントに応じてMEとEEに分かれます。両方の部門を含み、隣接部門に通知できる承認方法を用意してください。

 

Warner: ライブラリおよびデータ管理に関連してなさっている複雑なお仕事について深く掘り下げてお話いただき、本当にありがとうございました。貴重な見識をお聞かせいただき、感謝します。

 

Litson: こちらこそ、ありがとうございました。私のような設計者たちが何年もかかって学んだことを共有する機会をくださったアルティウムの皆さんに感謝します。

筆者について

筆者について

Judy Warnerは、25年以上にわたりエレクトロニクス業界で彼女ならではの多様な役割を担ってきました。Mil/Aeroアプリケーションを中心に、PCB製造、RF、およびマイクロ波PCBおよび受託製造に携わった経験を持っています。 また、『Microwave Journal』、『PCB007 Magazine』、『PCB Design007』、『PCD&F』、『IEEE Microwave Magazine』などの業界出版物のライター、ブロガー、ジャーナリストとしても活動しており、PCEA (プリント回路工学協会) の理事も務めています。2017年、コミュニティー エンゲージメント担当ディレクターとしてAltiumに入社。OnTrackポッドキャストの管理とOnTrackニュースレターの作成に加え、Altiumの年次ユーザー カンファレンス「AltiumLive」を立ち上げました。世界中のPCB設計技術者にリソース、サポート、支持者を届けるという目的を達成すべく熱心に取り組んでいます。

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