多層PCB設計: 高電圧PCB向けの基板の製造

投稿日 2017/09/13, 水曜日
更新日 2021/01/4, 月曜日

映画『シュレック』に登場するシュレックとフィオナ姫のろう人形
編集クレジット: Anton_Ivanov / Shutterstock.com

 

オリジナル版の『シュレック』は、私が大好きな映画の1つです。『スター・ウォーズ』といったもう少し歴史のある作品と同じように、この映画に出てくる名言はマニアである友人や兄弟姉妹の間でお気に入りの言葉になっています。特に有名なのは、自分のような怪物は複雑な生き物だということをシュレックがドンキーに説明しているシーンでしょう。「玉ねぎにはいくつも層がある。怪物にもいくつも層がある。わかるかい?玉ねぎにも怪物にもたくさんの層があるんだ」ここでドンキーが指摘したのは、誰もが玉ねぎを好きだとは限らないものの、パフェを嫌いな人はいないということでした。人が層になっているものをどのくらい好むかという点で、私の友人はPCB設計のラボで、多層PCBがパフェと玉ねぎの中間にあると言いました。

 

その複雑性を踏まえると、私はよく多層PCBがパフェよりも玉ねぎに近いと感じます。多層PCBに苦手意識を持たないようにするのに役立つことの1つは、製造の方法やその工程で設計にどのような影響があるのかについて理解することです。高電圧設計の場合は、製造による影響について理解しておくことがさらに重要になります。

 

多層基板の製造方法とは

PCB設計を製造業者に送った後は、最終的に完成基板にまとめて搭載されるそれぞれの層が個別に製造されます。銅箔トレースは撮像、エッチングされてからラミネート加工されます。これらの層は、非常に強力な液圧プレスで絶縁材を使って一緒に圧迫され、基板の最上層と最下層が加工されます。

 

中間層は、樹脂を浸透させたファイバーガラスである「プリプレグ(prepreg)」(pre-impregnatedの短縮語)を使って製造されます。プリプレグに含まれる樹脂の割合は、液圧プレスによる基板の圧迫に影響を及ぼします。プリプレグの分量と粘性は用途に応じた最適なものにし、製造中に不具合が発生しないようにしなければなりません。これは、ケーキの最後の層のフロスティングとスポンジを用意することに似ています。

 

プリプレグに含まれる接着剤の割合が多過ぎると、圧迫時に層と層の間からはみ出してしまいます。おいしいフロスティングなら問題ないかもしれませんが、PCBの製造の場合はご想像どおり、厄介でまずいことになります。プリプレグが多過ぎて基板が厚くなると、電圧保護の計算がすべて台無しになってしまうのです。

 

チョコレートのレイヤーケーキ
PCBに含まれる樹脂はケーキのフロスティングのようなもの。分量を間違えると厄介なことになる

 

樹脂について

一般的なPCBの場合、製造業者は低コストでボリュームのあるプリプレグ材を使用する確率が高くなりますが、こうした材料は樹脂の含有量が低く、ガラスが多く含まれます(ガラスは樹脂の浸透に影響を及ぼします)。高電圧の用途向けの場合は、樹脂の割合が高いプリプレグを使って、層のプレス後に隙間が残らないようにしなければなりません。隙間によって絶縁層の効果的な誘電性が変化すると、やはり電圧保護の計画が台無しになってしまいます。

 

ここでの賢い方法は、1080や2113といった高電圧用のプリプレグを選択することです。こうしたプリプレグは、樹脂の含有量が高くて層が薄くなるため、隙間や微泡が残るのを防止してすべての層の密度を高くすることができます。層状になった食べ物で言うと、バクラヴァのようなフレーク状の層は、高電圧下での性能に大きな影響を与えます。これらのプリプレグには含まれるガラスも少ないため、樹脂の浸透もよくなります。コストは上がるものの、その分だけ高電圧下での保護状態も向上します。

 

層の厚さ

一般的なプリプレグ層の厚さは、約0.002インチ(0.05ミリ)です。この厚さは自由に変更できますが、コストが上がるうえ、最終的な基板の性能にメリットがもたらされることもほぼありません。ただし、他の製造品と同じように、プリプレグの仕様には許容差が含まれます。使用されるプリプレグの許容差については、製造業者に確認してください。

 

0.5ミリなどという小さな誤差は、それほど大きなものではないように思えるものの、たくさんの層を積み重ねていくと大きな違いとなり、最終仕様に影響が及ぶことになります。一般的にプリプレグの許容差は、厚い層と薄い層が入り混じると最終的な平均よりも、厚い側で見られる傾向があります。

 

基板層のプレス後

プリプレグと銅のすべての層が液圧プレスの工程を経た後、最終基板が焼成されます。ここからはデザートの話にあてはめることはできません。基板は最終的な脱ガスのために、華氏260度でおよそ20時間焼成されます。これによって樹脂に残っているすべての水分と揮発性物質が除去され、層内の微泡ができる限り取り除かれます。

 

最終PCBが真空や低圧の環境で使用される場合には、追加の仕上げ処理に入ります。通常、これは4~6時間の高温での2次焼成で、基板が使用されるようになる前の最終的な脱ガスが行われます。

 

PCBに重なる地球

真空やその他の低圧の環境で使用されるPCBには、脱ガスのための追加焼成が行われる

 

基板に影響を及ぼし得る変数は数多く存在するため、設計プロセスの早い段階で製造業者と相談を開始することが望ましいでしょう。設計者が希望するプリプレグを使って、適切な厚さの基板が製造されるようにしなければなりません。そうすることで、設計の選択肢に縛られることなく、適切な厚みの基板を使ったデザインルールを確定できます。

 

設計プロセスを開始した時点で、層の厚さといったデザインルールを設定しておくと、作業中にエラーを特定することが容易になります。一部のEDAソフトウェアでは、チェックするスクリプトを実行し、特定された問題を修正しなければなりません。一方、Altiumなどのソフトウェアでは、作業中に問題が特定されると通知を受けることができるため、もう一度チェックを行う前に完了していたはずの作業で設計をやり直す必要がありません。

 

Altium Designerを使って設計や製造プロセスを改善する方法についてご不明な点がある場合は、アルティウムの担当者へお問合せください。

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