PCBの超高真空システムでのガス放出に対応する方法

投稿日 2017/06/23, 金曜日
更新日 2020/12/21, 月曜日
PCBの超高真空システムでのガス放出に対応する方法

地球を周回する人工衛星

 

「楽しみに水を差す」という言葉があります。私が高校生だった頃、マーチングバンドでサクソフォンを吹いていました。ある晩、競技会があり、4マイルの行進のうち2マイルまで行ったところで雨に降られました。私たちは雨宿りのために走らなくてはなりませんでした。多くの苦労も、ほんの少しの雨によって台無しになるという教訓です。地上では、結露があればそれを避ければいいのですが、気圧が低い場合にはそれだけで実験が失敗に終わる可能性があります。宇宙の真空中では結露は発生しないと思うかも知れませんが、多くの宇宙事業では、「ガス放出」と呼ばれるプロセスで少量の蒸気が放出され、複雑な状況が発生します。これは高真空環境で発生する現象で、近くの機器の機能を妨げたり、損なったりすることがあります。超高真空(UHV)用のPCBを設計するときは、基板からのガス放出を低減する方法を見つける必要があります。理想的な世界ならば、ガス放出を排除できるでしょうが、完全なものは存在しないので、ガス放出が発生したときに対処するための低減戦略を取り入れることが重要です。

ガス放出とは何か、なぜ問題になるのか

私は大学で、サクソフォンからバスーンに転向しました。バスーンとは何か知らない人は少なくないでしょう。それと同様に、PCBのガス放出(アウトガス)についてもあまり聞いたことがないかもしれません。ガス放出は、材料の中に閉じ込められている気体が超高真空の中に吸い出されるとき発生します。基板は多くの場合、各種の多孔質複合体で作られているため、この現象が大きな問題となることがあります。これらの浸透性材料は多くの場合、製造プロセスの間に空気や他の蒸気を中に閉じ込めます。その後で回路が宇宙の真空にさらされると、その蒸気が吸い出され、近くの表面に凝縮することがあります。

ガス放出の問題は、凝縮の発生により光学測定器との干渉が発生したり、汚染により測定が損なわれたりすることです。これは、彗星の大気を測定するよう設計された宇宙探査機で、ガス放出が彗星の特徴的な成分よりも大きくなる可能性がある場合、特に深刻な問題となります。

水蒸気など比較的ありふれた蒸気でも、任務の支障となる可能性があります。このような種類のリスクは、実験や宇宙ミッションに大きな妨げとなります。この理由から、NASAは作業場におけるガス放出の低減のヒントを公表しており、材料のガス放出をテストするためのガイドラインまで作成しました。これらのガイドラインを守っても、PCBには多少のガス放出が発生します。このため、ガス放出の制限だけではなく、軽減についても注意する必要があります。

 

 

カメラのレンズ
レンズや他の光学機器はガス放出によって汚染される可能性がある

 

 

ガス放出の低減

例の出来事の後で、楽器を乾かすために数日かかりました。楽器はオーブンに放り込んで水分を蒸発させるわけにはいきません。しかし幸いなことに、PCBのガス放出はまさにこの方法で減らすことができるのです。また、ガス放出の特性に優れた材料を選択する必要もあります。

製造業者は、各種の最終用途で役立つ1つの目的のためPCBをベーキングします。それはつまり、湿気を取り除くことです。基板の中に閉じ込められた水分は、半田のリフロー時にガスとして放出され、欠陥を引き起こします。この同じ湿気(蒸気)が、宇宙でもガス放出を引き起こします。真空中でのガス放出のリスクを低減するには、ただ回路をベーキングするだけでなく、真空中でベーキングする必要があります。これによって、水分の残留を可能な限り低減することが保証されます。

ガス放出を低減するための鍵となるのは、PCBに適切な材料を選択することです。基板は必ず、その目的に合うよう設計された成分、たとえばRogers CorporationのRT/duroidシリーズで構築します。Kaptonのような柔軟な回路用材料も、ガス放出の特性に優れています。

実験のための正しい足がかりとして、真空用に作られた材料を選択します。それから、基板から可能な限り多くの湿気を取り除くため、真空プリベークプロセスの使用について製造業者と相談します。

 

 

迷路
ガスの通る経路を用意します

 

 

ガス放出の影響の軽減

嵐の中の外出が避けられないとしても、傘やレインコートを使えば少しは濡れるのを防げます。最良の材料と製造プロセスを使用しても、おそらく基板からは依然としてガス放出が発生するでしょう。物事が予定どおりに進まなかった場合に備えて、基板の動作を保証するために、影響を軽減するための戦略を用意するべきです。機器から蒸気が抜けるよう換気を行ったり、加熱用の部品を使用したりすることで、ガス放出の影響を減らすことができます。

ガス放出が特に問題となるのは、レンズなどの光学機器の場合です。このため、基板が蒸気を放出する可能性があるなら、敏感な表面から離れるように誘導します。ガスが通過する経路を設計し、換気によってガスがその経路を通って宇宙空間や、害にならない別の場所へ排出されるようにします。

繊細な機器の近くに凝縮物が発生しないようにできる確信がない場合は、加熱部品を使用して膜や氷の層を蒸発させます。PCBが宇宙船に搭載される場合、影響を受ける表面を太陽に向けることもできます。

ガス放出は大きな問題ですが、それによって機材が台無しになることは避けられます。適切な材料を使用し、真空中でプリベークすれば、ガス放出の可能性を最小限に抑えることができます。その後で、ミッションクリティカルな要素についてまだ心配があるなら、他のいくつかの方法を試みることができます。できるだけ抵抗の少ない経路を作成し、ガスを適切な場所へ導くようにするか、影響を受ける表面から加熱により液体を除去します。

超高真空用の設計は一般には困難ですが、必ずしも困難な道を進まなければならないわけではありません。Altium Designerプロフェッショナル向けの最高のPCB設計ソフトウェアであり、これがあれば雨の中でも唄うことができ、困難な設計も簡単に行えます。優れた一連のツールにより、地上でも宇宙でも動作するPCBを構築できます。

ガス放出についてのご質問は、Altiumのエキスパートまでお問い合わせください。

 
 
 
 
 
 

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