アルティウムのPCB設計ブログ読者の皆さまは、おそらく、これまでに基板の設計や製造の経験をお持ちでしょう。私もそうですが、デザインを製造にリリースするのは、うれしくも悲しくもあることです。丹精込めて設計したハードウェアがもうすぐ形になる一方で、製造現場からDFMのリクエストが並んだ一覧が送られてくるからです。これは、1つも楽しいことではありません。この記事では、実装すべき設計機能を紹介し、製造前にやっておくべき手順について説明します。それがあれば、DFMの厄介事を避ける上で役に立つでしょう。また、シグナルインテグリティ回路で起こる一般的なDFMの問題についても、いくつか例をご覧いただきます。
積層板が特定の厚さでしか提供されていないことを忘れてしまい、積層板の物理的な特性のみを考慮して材料を選択する技術者が大勢います。スタックアップは、任意ではなく限定的な厚さの選択肢から選んで設計する必要があるのです。そうしないと、製造業者から製造可能なスタックアップを提案され、トレースの配置を大幅に変更する必要が出てくる恐れがあります。たとえば、GNDプレーンの任意の分離幅として8mil (4milの誘電体層が2つ) を使ってストリップライントレースをこちらは設計したのに、製造業者から材料が5mil単位でしか提供されていないと告げられた場合は、トレースの幅を大幅に広げるか狭めるかしてインピーダンスを維持する必要があります。これは、特に密度が制限に達しようとしている場合に、深刻な状況になります。
この問題を回避するには、レイアウトを開始する前に製造業者に連絡し、基板に何をさせる必要があるのかを伝えます。少なくとも、基板で対応する必要のある周波数範囲、レイヤの数、目標としている全体的な厚さについて知らせておきましょう。インピーダンス制御のための目標DKやパネルのサイズ、意図される最終用途といった詳細は、製造業者が考えられる選択肢を絞り込む際に非常に有用です。現場で製造がスムーズに進むような材料を選択することも、最初から良い結果を出す上で役立ちます。
基板を問題なく製造する上で必要なことを理解するにあたっては、ICP-A-610が一番の味方になってくれるでしょう。この文書はそれほど高価ではないため、まだお持ちでない場合は入手することをおすすめします [1]。この規格では、基板が3つのクラスに分類されています。クラス1では、故障率がそれほど重要にならない使い捨ての品目が対象となります。クラス2では、製造プロセスを踏まえ、確実に機能して故障率を低く抑える必要のある電子機器が対象となります。クラス3では、たとえば、ペースメーカーなど、故障が許されない機器が対象となります。各クラスに要求される仕様は、基本的にはPCB関連の故障モードを相殺するために組み込まれた安全マージンのレベルと、特定の現場でPCB製造プロセスに課せられる物理的な制限に伴う関連設計基準です。
大半の機器については、ドリルドローイングレイヤに「この基板はICP-A-610のクラス2に従って製造してください」という製造メモを残す必要があります。こうすることで、この規格を確実に守りながら基板を製造できるようになります。とはいえ、製造業者についてはちょっとした秘密があります。彼らはすべての設計でICPクラス2をチェックしているのです。これは単に、欠陥のために基板を戻されることを避けるためです。彼らがICPのクラス2の基準に照らして基板をチェックしているのであれば、こちらは設計が製造に渡される前に仕様を確実に満たしておく必要があります。単純に聞こえるかもしれませんが、これが技術者から最もよく耳にする問題なのです。
たとえば、「トレースにはシルクスクリーンを配置しない」や「SMTパッドにはソルダーマスクを使用しない」など、いくらかの常識があれば大半のIPCに準拠することができます。ただし、見逃しやすい基準もいくつかあります。それは、設計者が製造可能性ではなく、シグナルインテグリティやパワーインテグリティといった設計の別の側面に目を向けているからです。
ICPの文書では、ドリルブレークアウトが定量化されています。ブレークアウトを防止するには、ビアの周囲のアニュラリングの直径を、大半の製造業者のドリルよりも12mil大きくする必要があります。この問題は、同軸コネクタや高速シリアルコネクタ向けの設計で発生する傾向にあります。シグナルインテグリティの場合、このパッドは邪魔にしかならないため、最小限に抑える必要があります。通常、技術者はこのサイズを8milにしようと試みます。達成不可能な数字ではありませんが、すべての製造業者が対応できるとは限りません。
すべてのレイヤの銅箔からドリル穴のエッジまでの公称距離は、8mil以上にする必要があります。これは、ドリルがぶれて他のネットに接触しないようにするためです。8milでもかなり小さく、現在の最高水準では回路密度が上げられ、この制限にぶつかってしまうことが常となっています。ここで重要なのは、前もって計画して設計内で配線チャンネルを作成し、それに応じてトレースを設計することです。たとえば、10milのドリルで作成されたビアが2列あり、その列が40milの中心線上にあるとしましょう。配線チャンネルは、30milからDFMの両側で8milをマイナスした14milとなります。2つのトレースをここに収める必要がある場合、5milのトレースを使えば、4mil残すことができます。シグナルインテグリティの用途では、バックプレーン コネクタを使用する際に、かなりの頻度でこの方法が利用されています。たとえばAirMAXTMコネクタ [2] には、中央線が80mil (2mm) で、24mil (0.6mm) のドリルで作成されたビアの列があります。そのため、配線チャンネルは最大で40 (80 - 24 - 8 - 8) milになります。下の図はこの例を示しています。
ドリル間の絶対最短距離というのは、厄介な問題です。ドリルビットは、回転時にぶれて位置許容差を発生させます。「ドリルワンダー」と呼ばれる現象です。また、積層板の樹脂以外の材料 (ガラス繊維、ファブリック、セラミック) でもぶれが生じ、基板上のドリル位置が変わってしまいます。これは、「ドリルウォーキング」と呼ばれています。ドリル間の距離を見積もる安全な方法としては、以下のシンプルな式を使います:
穴から穴までの最短距離 = ドリル径x2
この乗数「2」は、スタックアップと材料に関係する2つの数字に由来しています。この数字は、下げることもできます。ビアの密度を上げる必要がある場合は、製造現場に最低値を問い合わせてください。
前述のように、ドリル加工には明確な制限があります。すでにお伝えしたことに加え、最大ドリルサイズはPCBの厚さとも関係しています。この制限は、「アスペクト比」と呼ばれています。アスペクト比は、製造業者ごとに異なるものであり、それぞれの製造能力についてまとめられた文書で公表されているはずです。一般的には、最小ドリル穴の12倍の厚さの基板を製造することができます。製造業者によっては、両側からドリルを行ってこの問題を解消している場合もあります。その場合は、アスペクト比が簡単に2倍になります。以下の表では、特定の最小ドリルサイズに対するPCBの最大の厚さを参照できます。
アスペクト比は、ビアが穴の仕上げ寸法を必要としているのか、そうしたサイズを気に掛ける必要がないのかによっても異なってきます。たとえば、9.7mil (0.25mm) のドリルはさまざまな接地ビアでかなり一般的なものであり、これらの穴では仕上げ寸法は不要です。ただし、現在の56Gb/s以上のコネクタのドリルは17.7mil (0.45mm) であり、許容範囲に収めるために仕上げ寸法が必要になります。そのため、17.7milのドリルではアスペクト比が12:1、9.7milのドリルでは20:1となるでしょう。これにより、基板はおよそ194mil (5mm) に制限されることになります。
基板の製造を円滑に進めるには、製造のプロセスを考慮して設計を行ってください。上記の方針から始めれば、他と大きく差を付けることができます。このブログで取り上げていない問題は、おそらく、他にもあるでしょう。そのような問題が発生したら、メモに記録し、ご自身や会社が次の設計で使えるようにルールを追加しておきましょう。そうすれば、DFMにかける時間を何週間単位で短縮できるでしょうし、胃薬を買うための小銭だって節約できるかもしれません。
[1] IPC-A-610の購入が可能なWebサイト: https://shop.ipc.org/IPC-A610G-English-D
[2] AirMAXコネクタ: https://www.amphenol-icc.com/airmax-10016527101lf.html
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