PCBトレースの電流と温度を算出するIPC-2221計算機

Zachariah Peterson
|  投稿日 2022/12/10, 土曜日  |  更新日 2024/07/1, 月曜日
IPC-2221計算機

IPC-2221規格には、プリント基板の設計と製造可能性に関する多くの要件が含まれており、この規格に基づいて開発されたオンライン計算機がいくつかあります。インピーダンスとアニュラリングの計算とは別に、この規格で規定されている主要な計算式は、温度上昇、トレース幅、およびトレース電流に関するものです。IPC-2221規格とIPC-2152規格の両方には、熱信頼性の設計に関するこのガイダンスが含まれており、各規格の適用可能性については議論がありました。

コンプライアンス指標としてIPC-2221を選択した場合は、運が良いと言えます。Altiumでは、所定の加熱制限に対するトレース幅の限界を見積もることのできるシンプルな計算アプリケーションを開発しました。Altium Designerのユーザーは、配線の作業中、PCBエディターでこれらの機能を使用できます。IPC-2221規格の熱解析の計算式については、今後も知識を深めることが大切です。当社の計算アプリケーションを、下記にご紹介します。

IPC-2221に含まれるもの

IPC-2221規格は、汎用プリント基板の認定基準であり、PCB/PCBAの標準規格です。この規格の要件は、安全性、信頼性、製造可能性を確保するため、設計に関する制約を定義するものです。この規格の認定は、一般的な規格です。さまざまな種類の基板には、より具体的な規格が適用されますが、それらは2220シリーズの規格全体で定められています。

IPC-2220シリーズ規格一覧

IPC-2221規格には、PCB内の導体の熱挙動と電気的挙動の関係を説明する2つのセクションがあります。

  • セクション6.2 - 導電性材料の要件
  • 付録B

これらの2つのセクションには、トレース幅とトレースに流れる電流を関連付ける一対のグラフが含まれており、IPC-2152との関連で最も頻繁に引用されます。これらの内部トレース外部トレースのグラフは、リンク先の記事を参照してください。またIPC-2221のセクション6.2には、トレースの断面積(A平方mil)と周囲温度からの目標の温度上昇(ΔT°C)、および平均電流(IAmps)を関連付ける単一の計算式が示されています。

IPC-2221トレース温度計算式

この計算式は非常にシンプルで、下記に示した計算機で計算できます。この式を使用してトレースの断面積を決定する場合は、銅箔の重量(厚さ)を使用して導体の幅を決定する必要があります。ここで算出される幅は、温度上昇を∆Tで指定した値未満に制限するのに必要な最小幅値になります。

IPC-2221トレース幅計算機

上記の式を実装したものが下記のアプリケーションで、温度を特定の値未満に保つために必要なトレース幅を計算できます。言い換えれば、銅箔の重量値を計算機に入力すると、電流と温度上昇制限を考慮して、必要なトレース幅を算出してくれます。

 
 
 
 
 

結果

 
 

このような種類のツールは、CADシステムでオンラインで利用できるでしょうか?Altium Designerのユーザーは、PCBエディターウィンドウの配線ツール内にある、自動のIPC-2221計算機にアクセスできます。この機能を使用するには、解析したいネットのトレースを選択し、[Properties] パネルの [Net Information] を展開します。すると、トレースのその部分の最大電流計算値が表示されます。

  • Altium DesignerのIPC-2221計算機は、許容される温度上昇が∆T = 20°Cに制限されていることを前提としています。

上記の計算機は、配線内のすべての円弧に対してすでに機能していますが、最近の更新で機能が拡張され、自由なプリミティブに変換されていない配線長チューニングのセクションが含まれるようになりました。バージョン22の最新アップデートをインストールしている場合、Altium Designer内のIPC-2221計算機は、PCBレイアウト内の配線長チューニングのオブジェクトを操作できるようになっています。上記のGIFで示されているのと同じプロセスを、配線長チューニングのセクションでも使用できます。

IPC-2221の計算式に関するいくつかの注意事項

上記に示した式には、精度と適用性の点において、注意すべき重要な点がいくつかあります。

  • この式は、上記のリンク先の記事に示されている図に基づいています。
  • この式は、基板がSTPの空気環境にあることを前提としています。
  • 式の開発に使用されたテスト基板は、厚い基板上のトレースを使用しただけで、近くに熱を移動させるような銅箔(プレーンまたは流し込み)はありません。
  • 近接する複数の並列トレースは、高電流を流すため、1つの大きなトレースとして扱うことができます。
  • 基板が薄い場合(30mil以下)は、規格では、10%ではなく15%のディレーティングが推奨されています。
  • 標準的なエポキシとガラス繊維のラミネートよりも熱伝導率が高い基板では、電流/トレース幅の制限が異なります。

このことは、最新のPCBについて考えたとき、IPC-2221計算機の結果が非常に保守的であることを意味します。言い換えれば、配線の周囲にプレーンや銅箔を配置する場合、計算される電流容量の値は低く算出されている可能性が高いということです。逆に、計算される最小トレース幅は、おそらく過大に算出されています。計算機は、必要なトレース幅を過大に算出する可能性があるため、これらの結果を使用するときは注意が必要です。

このように、現在のPCB設計との不一致が知られるようになったため、より具体的で、より精度の高い新規格を開発しようとする動きが起こりました。それがIPC-2152規格です。IPC-2152規格の概要を以下に説明します。

IPC-2221とIPC-2152: どちらがより正確か?

オンライン計算機には限界がある、と私はよく述べてきましたが、IPC-2221計算機も、上記に説明した点において同様です。IPC-2221で計算される最小幅の値は、確かに過大に算出されています。そのためIPC-2152規格は、トレース幅、温度上昇、および電流制限を決定する複数のノモグラフを含めるよう、利用可能なデータセットを拡張することとなりました。

この記事を書くために調査しているときに、ポッドキャストのゲストの1人であるMike Jouppi氏が執筆した、古いIPC-2152の調査報告書を見つけました。この調査報告書では、銅箔の重量の違い、プレーンの有無、配線とプレーンの距離、空気中と真空中での使用など、回路基板に見られるさまざまな設計条件を、IPC-2152がどの程度深く捉えようとしていたかが示されています。

IPC-2152に関して、なぜこれほど多くの調査が行われたのでしょうか?以下のグラフは、いかに詳細な情報が必要とされていたのかを示しています。これは、IPC-2221の付録Bからのものです。このグラフのデータは、同じサイズのトレースに供給される所定の電流に対する、温度上昇の測定値を比較しています。IPCによる結果は、すべての電流値について、予想される温度上昇を大幅に高く算出していることが分かります。これが、IPC-2221に基づく計算ツールが、必要な導体幅を過大に算出する傾向がある理由です。

IPC-2221データ

特に高い信頼性が重視される製品では、ユーザーが、最適な設計判断を下すことが重要です。そこで、トレース幅が温度上昇や電流制限に与える影響をより深く理解できるよう、役に立つリソースをいくつかまとめました。

PCBのIPC-2221計算結果をすぐに確認したい場合は、Altium Designer®の業界随一のPCB配線ツールセットを使用してください。設計が完了し、ファイルを製造業者に送るときにAltium 365™プラットフォームを使用すると、プロジェクトのコラボレーションおよび共有が容易になります。

ここでは、Altium 365とAltium Designerで何が可能か、その一部を紹介したに過ぎません。今すぐ、Altium Designerの無償評価版を始めてください。 

筆者について

筆者について

Zachariah Petersonは、学界と産業界に広範な技術的経歴を持っています。PCB業界で働く前は、ポートランド州立大学で教鞭をとっていました。化学吸着ガスセンサーの研究で物理学修士号、ランダムレーザー理論と安定性に関する研究で応用物理学博士号を取得しました。科学研究の経歴は、ナノ粒子レーザー、電子および光電子半導体デバイス、環境システム、財務分析など多岐に渡っています。彼の研究成果は、いくつかの論文審査のある専門誌や会議議事録に掲載されています。また、さまざまな企業を対象に、PCB設計に関する技術系ブログ記事を何百も書いています。Zachariahは、PCB業界の他の企業と協力し、設計、および研究サービスを提供しています。IEEE Photonics Society、およびアメリカ物理学会の会員でもあります。

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