前回のブログでは、単一のICを使った単純なブラシ付きDCモーターコントローラーの設計について説明しました。比較的シンプルな基板ですが、両方のモーターがドライバーのチャンネル当たりの最大定格電流で動作している場合、最大4Aの電流を流します。このような単純な基板の場合は、トレースの長さと幅を調べ、オンライン電卓を使用して (または、ちょっとした計算をして)、トレースの電流密度を算出し、負荷への対応方法を確認することができます。ただし、より複雑な基板の場合は、たちまち面倒な状況になる可能性があります。電流を流すポリゴン、さまざまなトレース幅の混在、配線に沿ったコンポーネント、その他の複雑なPCB機能がある場合、基板が目の前の作業に対して十分かどうかを計算することが難しくなります。
銅箔層上の電流密度を視覚化できれば、より最適な設計を決定することができます。
これは、私がPDN Analyzerで非常に気に入っているところです。複雑な基板向けのセットアップには若干の作業が必要ですが、いったん完了すれば、回路基板の電流および電圧を最適化して、わかりやすく表示できます。マイクロコントローラーやFPGAに電力を供給するだけの場合でも、PDN Analyzerを使用すると、電流密度が高すぎたり、配線上の電圧降下が限界を超えている場所をすばやく視覚化できます。専門知識が不足している関係者に向けて、回路基板の視覚的なマップをすばやく作成して、潜在的な問題を強調表示することもできます。これにより、基板が予想どおりに動作するよう、仕様を少し変える (基板面積を広げる) 必要があるかもしれない理由を確認できます。
PDN Analyzerを初めて使用する読者の方には、ダウンロードしてそれに沿って説明を理解できるような基板を作成し、電力ネットワークを設定して、解析について説明し、ツールの使用方法を習得していただきたいと考えました。Altium Designerのマニュアルには初めての操作の例が記載されていますが、私が構築したモーターコントローラープロジェクトははるかに簡単で、基板上のすべてのネットの電力ネットワークをすばやく設定することができます。これにより、時間に追われている読者の方があっという間にツールを開始できることを願います。また、PDN Analyzerの入門ガイドの完全版もあり、インストール、およびライセンス認証を行ってから利用できます。さらに、PDN Analyzerのマニュアルもご利用になれます。
PDN Analyzerを起動する前に、電力ネットワーク設計で参照するネットにネット名を追加することをお勧めします。これにより、IC2_2のような名前のネットを識別する必要がなくなり、はるかに簡単に見つけられるようになります。
Altium Designerで表示したモータードライバーの回路図
PDN Analyzerを開くと、操作を開始するための単一ネットワークを持つ新しいソリューションから始まります。ネットワークを見やすくするために、[PDN Analyzer] ウィンドウを、最初の開始サイズよりもやや大きく広げることを強くお勧めします。
PDN Analyzerには、単一のネットワークを含む名前のないシミュレーションがあります。
次に、[DC Nets] ボタンをクリックし、電圧を設定して使用するネットを指定します。
回路図内のネットの電圧レベルを設定するウィンドウがポップアップ表示されます。
次に、すべてのネットを選択して [Add Selected] をクリックします。探しているネットが見つからない場合は、[Enable all nets for filtering] チェックボックスをオンにすると、すべてのネットを表示できます。
今回、Hブリッジの電力ネットワークで使用する設定は、一見すると通常とやや異なるように見えます。これは、電源からGNDまでの電流経路をシミュレーションしたいからです。技術的に言えば負荷はモーターコネクタですが、電流はドライバーICとモーターを通って流れ、その後ドライバーICに戻って電流検出抵抗を通過するので、シミュレーション目的では特に役に立ちません。少なくとも、このプロジェクトで使用しているAllegro A4954ではそうです。これを処理するために、ネットワークの負荷を電流検出抵抗 (CS1、およびCS2ネットに接続されたR6およびR9) に設定し、各ネット間に直列接続されたIC1とコネクタ (J1、およびJ2) でモーターに電流を伝送する各ネットを介して、VCCネットを拡張します。
R6、R9、IC2を負荷として設定して、ネットワークを流れる電力潮流について説明しました。
完全を期すため、電流引き込みは低いですが、電圧レギュレータを電圧レギュレータの負荷として追加しました。上の図では「Load 1」と表示されています。電圧レギュレータを負荷として追加することで、基板を通る電流フローを正確にシミュレーションできます。負荷を追加する場合、[Device Properties] ウィンドウの上部にある [Device Type] を [VRM] (Voltage Regulator Module) に設定すると、電圧レギュレータの安定化側に新しいネットワークを生成できます。出力電圧を必ず設定してください。
電圧レギュレータをVRMに設定してVRM端子を指定し、Voutパラメーターを設定して
電圧の安定側にネットワークを生成しました。
3.3Vネットでは、ポテンショメーターを直列コンポーネントとして使用して、回路図内でネットワークをVREFネットに拡張しました。直列コンポーネントの抵抗をポットで使用されている値に設定し、抵抗分圧器の下側の支脈の電流引き込みを、抵抗分圧器を通る電流に設定します。この基板は、EMIがリファレンスネット上の電圧を誘導し、モーターの予期せぬ動作を引き起こしかねない産業的環境にあるため、抵抗値が比較的低いことに注意してください。
3.3Vネットワークは、電圧レギュレータであるIC2を電流の供給源として
抵抗分圧器の下側の支脈であるR2およびR4にシンクします。
ネットワーク上に電圧レギュレータの負荷を配置したら、その電圧レギュレータを右クリックして [Add VRM to New Network] を選択すると、出力ネットワークを生成できます。
ネットワークを設定したら、[Analyze] ボタンをクリックしてネットワークのシミュレーションを実行できます。
PDN Analyzerは、回路基板の優れた外観によりクライアント向けや管理用のレポートを体裁よくまとめられるだけでなく、多くの興味深い解析を簡単に行うことができます。この解析により、実際のエンジニアリングの意思決定を迅速に行うことができます。また、場合によっては外部出力/入力の制限と併せて実装する必要があるデザイン、および潜在的な変更を解析できます。
マイクロコントローラー、FPGA、RFモジュール、またはその他の電圧依存のデバイスを供給する仕事にかかわっている場合、PDN Analyzerは、電圧への依存性が高い負荷に達する電圧が許容差内に収まるのにトレース幅が十分かどうかを特定するプロセスを、大幅にスピードアップします。ただし、このプロジェクトでは、関心の対象は基板の周辺の電流のみなので、電圧解析は考察しません。モータードライバーのトレースが比較的狭いコンパクトな設計なので、過熱の可能性が気がかりです。この設計を手作業でチェックしていたら、総じてEeWebのようなオンライン計算機ツールでトレースごとに電流容量を計算していたでしょう。
PDN Analyzerを使用すると、手作業で数本のトレースを計算するより短い時間で基板全体を解析できます。PDN Analyzerは温度上昇ではなく電流密度を出力するので、安全な電流密度を手作業で調べる必要があります。電流密度は、決定を下す場合により実用的です。気流、筐体、周囲温度、表面コーティング、およびその他の要因が、現実世界の特定トレースの実際の温度上昇と電流容量に関係しているからです。このような基板の場合、100-120 A/mm2は極めて高いと考えられます。これは、基板上のトレースと同じサイズのトレースの周囲の気温に対して約30℃の温度上昇をもたらすからです。トレースの安全性を保つため、高電流ネットの電流密度は60~75A/mm2が無難です。この場合、周囲の気温上昇は約10℃に抑えられます。
各ネットワークの下部にあるタブには、設計の整合性の維持に非常に役立つ各種解析テーブルが含まれています。これらのテーブルは、上記のマイクロコントローラーやFPGA回路シミュレーションの場合により役に立ちます。ですが、このモータードライブでは、[Visual] テーブルの方が設計の検証をはるかに迅速に行えます。誤解しないでいただきたいのですが、各種解析テーブルは、設計者がシミュレーションする可能性のある大部分の基板で非常に役立つ機能です。ただしこのモーターコントローラーでは、全体的な電力統計ではなく、実際のトレースの詳細な解析をしたいのです。
PDN Analyzerが計算した消費電力表。画像を新しいタブで開くと明確に表示できます。
[Visual] タブで、[Current Density] ボタンをクリックして [2D] ボタンをクリックすると、設定したネットワークがGNDなしで表示されます (GNDの大部分は邪魔になりますが、解析の後半で必ず確認する必要があります)。
ほとんどのトレースは高い電流密度を持っていますが
必要な単位で密度が示されていないため、低くすることができません。
これは、電流密度をパーセンテージで示したものです。カラースペクトルが非線形であることに注意してください。カラースケールはレールごとにも表示されます。このビューでは、複数のレールが表示されているので、基板の左側を垂直に走る3.3Vのレールがモータートレースと同じ電流レベルを伝導しているように見えます。これらはいずれも、各レールの電流密度のほぼ100%を伝導しているためです。
探しているのがこの出力ではない場合は、カラースケールを自動に変更することもできますが、その代わりに [Displayed] (表示) に設定して実際の電流密度を表示してみましょう。
さらに、手動表示にすることで、モーター負荷当たり2Aの設定によって、どのトレースまたはトレースのどの部分が過負荷になっているかが一目瞭然です。前の記事で私が各出力で1Aモーターを駆動していることをお伝えしましたが、モーター当たり2Aが、ドライバーが対応できる最大値になっています。この基板が今後どうなるかはわかりませんが、全電流容量でチェックする価値はあります。
最終設定は、最も高い密度の赤が100A/mm2であることを示しています。
手動で最大電流容量を100a/mm2に変更すると、基板が少し違って見え始めます。
レースはどこに消えたのでしょう?
黒いトレースは、電流の限界が指定された範囲外にある箇所です。これにより、幅の狭いトレースが複数あることがすぐに明らかになります。モーターのトレースは、モーター当たり2Aで過熱状態になり、層間剥離を起こしかねません。
ネットワークの負荷を1.2Aに変更した場合、予想される最大負荷よりも少し高くなると、これらのトレースは先に述べた最大限界を下回ります。熱を持ちますが、危険なレベルには達しないでしょう。
2Aではトレースが消えているかもしれませんが
1.2Aでははっきり表示されています。ただし、若干熱を持ちます。
ただし、黒いところが1か所あります。ICの電圧供給のためのビアの周囲です。この部分は、より幅広なトレース、あるいはおそらくポリゴンを使って再設計する必要があります。この場合、より適したトレース幅を決定するため、出発点としてまず前述のオンライン電卓を使用してみます。そのためには、そのトレースを流れる電流容量を知る必要があります。そして当然ですが、PDN Analyzerはプローブツールを使用して電流容量を即座に計算してくれます。同じ [Visual] タブで、 [Probe] をクリックして基板の問題の領域をクリックします。
top layerのVCCネットでプローブした位置には、実に1.768Aもの電流が流れています。
これは、基板上で約1.768Aを確認できる可能性が高く、32umの銅箔基板では、データシートのAllegro推奨のPCBレイアウトに従って提示された現在の0.45mmよりも0.75mmのトレース幅の方が適切であることを示しています。
ここの基板レイアウトとICピンの間隔を前提とすると、ポリゴンが、このピンに銅箔を追加する最も簡単な方法になります。
VCCネットに銅箔ポリゴンを追加した後の基板。
基板のこの部分を再設計したしたら、PDN Analyzerで行う必要がある作業は、もう一度 [Analyze] をクリックして変更結果を確認することだけです。
銅箔により、ICの電圧供給周辺の電流密度が低下し、すべてのトレースが良好に見えます。
同じ手動カラースケールを適用すると、予想どおり、ポリゴンの追加が基板のその領域の電流密度に対して大きな効果があることがすぐにわかります。今度は、安全な範囲内に収まっています。
ここまでで、トレースの電流容量が十分であることを確認しましたが、まだGNDを確認する必要があります。ドライバー基板が設計された最初の記事をお読みになった方は、データシートで推奨されているように、電流検出抵抗にスターGNDを使用するために、基板のbottomにカットアウトがあったことを思い出すかもしれません。私は、これが基板の電流容量に悪影響を与えないようにしたいと考えています。また、top面では、電流検出抵抗と電源コネクタがポリゴン内の領域に制限無く、十分に広く接続できるようにしたいと思います。
銅箔が露出した後の基板のTop面
top面では、ドライバーICの露出パッドから電源コネクタのピンまでの電流経路がはっきりとわかります。再びプローブツールを使ってポリゴン上の任意のポイントを調べて、基板の特定ポイントの電流密度を明らかにすることができます。
top面の銅箔領域で最も高温の場所でも16.93A/mm2にすぎません。これは、最大密度100A/mm2の約6分の1です。
これで満足のいく基板のtop面ができましたので、カットアウトがあるbottomのポリゴンを確認できます。
基板のbottom面もすべて良好に見えます!
電流検出抵抗と露出パッドの間にあるスロットのギャップを前提とすると、電流密度が許容範囲内にあるのはそれほど驚くことではありません。それにもかかわらず、この結果を視覚化できるのは興味深いことです。
この解析は、PDN Analyzerで実行できることのほんの一部です。ここでは視覚化と電流にのみ重点を置いて説明してきましたが、他のタブのテーブルも深く掘り下げる価値があります。[Pins] タブでは、不適切な部品を選択した場合や、当初の予想よりも電流が高くなる場合など、万が一のケースを想定し、各ピン (特に、コネクタの場合) を流れる電流が製造業者の最大仕様よりも少ないことを確認できます。[Vias] タブでは、[Current Density] でテーブルをソートします。これにより、最も高い電流密度が許容範囲内にあることをすばやく確認できます。電流密度が高すぎる場合は、すぐに余分なビアを追加するかサイズを変更して再解析し、変更によって電流密度が仕様の範囲内に収まったどうかを確認できます。ネットワークの電圧または電流レベルに対して要件を満たした許容値を設定した場合、ネットタブには、そのネットが設定した要件を満たすかどうかをすばやく表示できます。
PDN Analyzerによるこのドライバー基板の解析に基づき、ドライバーICの電流設定で抵抗分圧器の値を変更して、1.2Aを上回る最大電流を設定できないようにすることが適切でしょう。トレース幅を変更するという方法もありますが、1.2Aは今回の要件を超えています。
また、負荷がより高い他の領域にビアや銅箔を追加する方法も考えられます。
PDN Analyzerをお持ちの場合は、GitHubで、構成とシミュレーションが完了しているこのプロジェクトをダウンロードできます。ご自身で説明に沿って操作し、解析を構築したい方は、PDN Analyzerの追加に先立ち、今回のコミットより前の、前回の記事で完了した時点のプロジェクトをダウンロードすることができます 。これにより、基本的なモータードライバー回路を解析して、この単純なプロジェクトと実験を再現することができます。
PDN Analyzerをお持ちでない方でも、今回の単純なプロジェクトの解析により、このシミュレーション ツールがAltiumに追加された瞬間に私が一目惚れした理由をわかっていただけることを願っています。単純なモーターコントローラーを設計している場合でも、より大きな負荷に電力を供給している場合でも、より一般的な回路について影響を受けやすい電圧許容差の要件がある場合でも、PDN Analyzerは、レイアウト解析の時間を節約し、完成した銅箔基板が要求通りに動作するはずだという確信をくれます。
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