プリント基板の設計では大半の時間を配線作業に費やし、その作業時間に占める割合は60%以上ともいわれています。この配線に要する時間を短縮するため、基板設計ツールのAltium Designerには、高性能なSitusオートルータが備えられています。
このオートルータは、全自動で配線を行うものですが、良質な配線結を得るには使いこなしが必要です。そこで今回は、このSitusオートルータの概要と、効果的に利用するための方法を探ってみました。
オートルータは配線を自動化するツールとして登場して以来、さまざまなアルゴリズムの開発によって改良されてきました。まず、その進化の経緯を紹介します。
・ 初期のオートルータ
層ごとに決められた、縦と横への直角配線のみ。既設の配線にブロックされた場合には新たなパスを探すが、パスが見つからなければ配線をあきらめる。
・リップアップ配線
既存の配線にブロックされた場合、それを引きはがしてルートを確保する。
・ シェープベース(オフグリッド)配線
隣接するオブジェクトの外形との間で、適切なクリアランスを保ちながら配線を行う。グリッドに拘束されないため、配線密度が上がる。
・45°の斜め配線
縦と横の直角配線だけでなく、45°の斜め方向にも配線。
ノード間を最短距離で結ぶ事ができ、ビアも削減できる。交差点に対角に設置された横断歩道のように、無駄のないルートが形成される。
このように、自動配線は進化してきました。Altium DesignerのSitusオートルータは、これらの配線機能に加え、独自のトポロジカルマッピングアルゴリズムによる、高度な配線パス探索能力を備えています。そして、この高度な配線機能は、デザインルールとストラテジによる管理下で実行されます。
・ デザインルール
手配線を行う場合と同じように、配線はデザインルールの管理下で行われ、線幅やクリアランスには、デザインルールのパラメータとして設定された値が用いられます。
・ ストラテジ
自動配線は、始めから終わりまで同じアルゴリズムで実行されるわけではなく、配線の進行に合わせて、それぞれの段階に合ったアルゴリズムに切り替えながら行われます。
この方法は、手配線の場合と同じで、配線はまず、電源部やSMTパッドからの引き出しから始まります。ちなみに、Situsルータで多層基板を配線する場合の初期設定は、まず、SMTパッドからの電源の引き出しを行い、次に、メモリパターンの配線、その次にSMTからの信号の引き出しを行うという順になっています。そしてこの後に、基板全体の配線が行われます。
配線は、このストラテジによって全自動で行われます。
そして、このストラレジでの配線手順は、手配線の場合とよく似ています。しかし、自動配線では、意図通りの配線結果が得られるとは限らず、手配線のような良質な配線に仕上げるには、どうしても手直しが必要になります。
自動配線を試した人の印象は、「配線が全部繋がらない」、「配線に無駄が多い」というのが正直なところだと思います。確かに、自動配線は手間が省けるものの、人間の配線能力にはかないません。しかし、その期待外れの結果は、オートルータの能力のためだけでなく、多くは部品配置に起因するものであると言えます。
また、自動配線では配線中に部品を移動できません。例えば、手配線の場合には、配線中にスペースが不足すれば、部品を移動してスペースを確保できます。また、配線中に部品を回転させる事もできます。しかし、オートルータではそういうわけにはいきません。
このため、自動配線では、配線を始める前に完璧な部品配置に仕上げておかなければなりません。
自動配線の品質は、まだまだ手配線には敵いませんが、短時間で配線ができます。しかも、全自動ですのでコマンドを起動した後は、待っているだけで配線ができてしまいます。
この「早い・自動」というオートルータの利点をうまく設計に利用する事が、配線を成功させるための要であるといえます。そこで、そのヒントを拾い上げてみました。
・オートルータを基板サイズと層数の見積もりに利用
慣れた設計者なら回路図を見れば、必要な基板サイズと層数を予測する事ができます。しかし、それはオートルータではなく設計者の能力に基づいたものです。そこで、オートルータの配線能力を前提とした予測が必要になります。
それにはまず、配線の終わった既存の基板の配線をアンルートして、自動配線を掛けてみると良いでしょう。おそらく、手設計で無駄なく詰め込まれた基板を自動配線した場合には、未結線が残ります。そして、その結果から、自動配線では配線スペースにいくらかの余裕が必要である事が分かります。さらに、この情報は、新たな基板をオートルータで配線する場合に必要な、基板サイズや層数の予測に、役立てる事ができます。
・オートルータを部品配置の最適化に利用
本番の自動配線を行う前、部品を仮配置した段階で「自動配線を試行し、その結果を見て部品の位置を修正する」という方法で部品配置を最適化する事ができます。
要するにこれは、オートルータを部品配置の良し悪しの評価に利用するという用法です。これを何度も繰り返して適正化を進め、未結線の数が許容できるところまで減ったところで部品配置を確定します。この方法では、オートルータの配線結果を待たなくてはならないので、それなりに時間がかかります。しかし、配線の進捗がグラフィカルに表示され、注意して見ていると配線のボトルネックになりそうな箇所がわかりますので、随時オートル-タを止めて配置修正を行う事で、待ち時間を短縮できます。
この方法で、部品配置を最適化した後、本番の配線工程に移ります。
・ストラテジをステップバイステップで実行
Situsオートルータを起動すると、ストラテジに設定されたアルゴリズムが次々と繰り出され配線が最後まで行われます。しかし、このストラテジをステップバイステップで実行するという使い方も効果的です。例えば、ストラテジのそれぞれ段階が終わったところで、いったんオートルータを止めて配線を手作業で修正し、それが終ってから次の段階に進むという方法です。自動配線では、手作業による修正が避けられません。ストラテジのそれぞれの段階で配線を修正すると、その改善が次の段階に反映されます。そして、その結果、配線の質が向上し、手直しに手間取らない良質な配線結果を得る事ができます。
自動配線は使えないと思い込んでおられる方も多いと思います。しかし、それは設計対象によって異なり、自動配線が役立つ基板もあるはずです。使いこなしにはコツが要りますが、「使えれば儲けもの」というくらいの気軽さで試してみてはいかがでしょうか?
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