初めてフレキシブル回路を設計する方々とお話しすると、何度も繰り返し話題に上るテーマが1つあります。それがスタックアップです。特にインピーダンス要件を満たそうとする場合や、リジッドフレックスの遷移部を成立させようとする場合、誘電体厚みを小数点以下まで細かく指定してしまうのは非常によくあることです。しかし実際には、リジッド基板用の積層材とは異なり、フレキシブル材料は無限に近い厚みの選択肢があるわけではありません。選べる種類は限られ、入手性にも制約があり、多くの場合、値を細かく指定するよりも、柔軟性のある判断を製造業者に委ねた方が、設計要件にうまく合致します。
この記事では、その実情を明らかにし、フレックス材料で実際に何が起きているのか、そして設計者がその制約を理解しておくことがなぜ重要なのかをご紹介します。読み終える頃には、「現実に存在するもの」を理解することで、より製造しやすいスタックアップを作成し、プロジェクト遅延を回避する方法がわかるはずです。
設計者の立場からすると、誘電体厚みは「制御」の問題です。高速信号のために厳密なインピーダンスを得たい。差動ペアの間隔を均一にしたい。リジッドフレックス接合部でスタックアップのバランスを取りたい。そしてCADツールを使えば、欲しい条件をそのまま正確に指定できてしまいます。
たとえばフィールドソルバーが、50オームを得るには銅層間隔が1.87 mil必要だと示したら、その値を図面にそのまま入れたくなるのも無理はありません。問題は、フレックス材料はその指定どおりには動いてくれないという点です。少し冗談めかして言えば、「思いどおりには曲がってくれない」のです。設計上の「最適」厚みが、仕入先のラインアップに存在しないかもしれませんし、存在しても在庫がないことがあります。
では、フレックス材料について製造業者が実際に扱っているものを、もう少し詳しく見てみましょう。
ポリイミドは、産業用途のフレキシブル回路における主力材料です。標準厚みで製造されており、一般的な値は12 µm、25 µm、50 µm(約0.5、1、2 mil)です。設計者は、公称インピーダンスや配線幅、さらに 曲げ半径を計算する際に、これらの材料厚みの範囲に合わせる必要があります。
接着剤ベースの積層材を使うか、接着剤なし積層材を使うかは、フレキシブル回路の最終性能と製造の複雑さの両方を左右する基本的な選択です。どちらも銅をポリイミド基材に接合するための方法ですが、追加の「接着層」があるかないかによって、スタックアップの電気特性、熱安定性、全体厚みに大きな違いが生じます。
リジッド基板では、ソルダーマスクを薄い保護コーティングとして捉えます。一方フレックスでは、接着剤付きポリイミド片であるカバーレイを使用します。カバーレイはソルダーマスクよりはるかに厚く、接着剤の流れによるばらつきもあります。保護性と柔軟性のために必要ですが、ソルダーマスク層のように簡単に調整できるものではありません。
補強板は「特別な」リジッド材料ではなく、 標準的なFR4プリプレグをフレックスリボンに接着したものです。補強板の役割は、フレックスPCBの特定領域に強度を持たせることにあり、特にコネクタ、機械要素、多ピン部品の実装部で有効です。これらは市販材料であるため、特定の機械厚みを実現するために利用できる厚みの選択肢がいくつかあります。
材料サプライヤーが幅広い厚みを掲載していても、製造業者がそれらを在庫しているとは限りません。フレックス材料は特殊材料です。液晶ポリマー(LCP)や高信頼性ポリイミドのような高度なフィルムでは、リードタイムが数か月に及ぶこともあります。
スタックアップが 標準外の厚みでなければならない場合、材料待ちでプロジェクトが止まることもあれば、製造業者から代替案を提示されることもあります。いずれにしても、遅延、コスト増、または再設計につながります。これを防ぐ唯一の方法は、標準在庫の厚みを前提にし、絶対寸法ではなく電気的要件を指定することです。
材料の制約と設計意図が衝突したときは、現実的な対応が必要です。実在しない誘電体厚みに固執すると、製造業者はその仕様に異議を唱えるか、目標どおりに機能しないものを製作することになります。
インピーダンス計算機で、50オームのシングルエンド配線には1.8 milの誘電体厚みが必要だと出たとします。そこでスタックアップに「1.8 mil」と記載して製造業者に持ち込んだとしましょう。 問題点: ポリイミドフィルムとして入手できるのは1 milまたは2 milです。さらに、そのスタックアップでは特定の銅フィルムや多層構成のために接着剤が必要であり、その厚み(通常1 mil程度)も計算に含めなければなりません。
結果として、実際の誘電体厚みは中央コア層で3または4 mil、外層で1~2 milになります。いずれも、線幅と銅箔重量次第でインピーダンス要件を満たすために利用可能です。電気性能と製造性のバランスを考慮して、製造業者が最適な解を提案してくれるでしょう。
フレキシブル材料を使った設計は、硬質積層材での設計とは異なります。電気的・機械的に必要なことを指定し、材料選定は製造業者に委ねることで、現実的でない、あるいは存在しない厚みの数値を追いかけることを避けられます。
次にフレックスまたはリジッドフレックスのスタックアップを指定するときは、その非常に精密な誘電体厚みの数値をキーボードに打ち込む前に、一度手を止めてみてください。そしてこう自問してください。「手元で使える材料は何か、それを使ってどう設計要件を満たすか?」 この会話こそが、スムーズで納期どおりの製造と、材料調達の泥沼にはまり込んだプロジェクトとの分かれ道になるのです。
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フレックス回路の標準的な誘電体であるポリイミドは、固定された刻み幅で製造されており、一般的には12 µm(0.5 mil)、25 µm(1 mil)、50 µm(2 mil)です。設計者はこれらの範囲内で設計する必要があります。これらの標準厚み以外を指定すると、材料が入手できない、製造が遅延する、あるいは図面どおりにスタックアップを構成できないリスクがあります。
フレックス材料は、リジッド積層材のように任意の厚みで供給されるわけではありません。フィールドソルバーが1.8 milを返したとしても、その値のポリイミドフィルムは実際の製造品として存在しません。正しいアプローチは、インピーダンス目標を定義し、製造業者に実在する材料の組み合わせを選定してもらい、配線幅や銅箔重量を調整して電気的要件を満たすことです。
はい、大きく影響します。接着剤ベースの積層材では、銅とポリイミドの間に接合層(通常は約1 mil)が加わり、その最終厚みは樹脂流動やプレス条件によって変動します。このばらつきにより有効誘電体厚みが変化するため、インピーダンス計算に織り込む必要があります。接着剤なし積層材ではこの層が不要なため、厚み管理がしやすく、電気的予測性も高くなりますが、その分コストは高くなります。
カバーレイは、フレックス回路におけるソルダーマスク相当の材料ですが、薄い塗膜ではなく、接着剤付きの積層ポリイミドフィルムです。ソルダーマスクよりかなり厚く、積層時の接着剤流動によって最終厚みも変動します。ソルダーマスクのように後から精密調整することはできないため、製造開始前の設計段階で、スタックアップ全体への寄与を考慮しておく必要があります。