Altium DesignerとAltium 365を使用したEMIフィルターシミュレーションによるノイズ抑制

Zachariah Peterson
|  投稿日 2020/10/23, 金曜日  |  更新日 2021/02/1, 月曜日
Altium DesignerとAltium 365を使用したEMIフィルターシミュレーションによるノイズ抑制

新製品を設計して評価するには、何回もシミュレーションを実行する必要があります。非常に安定した電源レギュレーション方式を設計する必要がある場合には、このことが特に重要です。電源に不可欠な評価手順の1つは、EMIフィルター シミュレーションです。この作業では、周波数領域のガウス ランダムノイズを直接、シミュレーションするか、回路の周波数応答を分析し、伝導、または放射されるノイズが回路に強い応答を引き起こす可能性がある場所を識別します。

電源の実際のEMIフィルターのシミュレーションでは、反応性コンポーネント間の寄生成分とカップリングにより、複数の共鳴を持つ複雑な伝達関数がどのように生み出されるかを調べる必要があります。EMIフィルターが60HzのACライン電圧とDCのみを通過させる必要があるため、ローパス動作を実現するために実際のEMIフィルターをどのように修正すればよいか特定します。

これらのシステムの設計は複雑になりがちで、多くの場合は複数の作業者が共同でプロジェクトに取り組む必要があります。共同作業者とプロジェクトを共有する場合は、Altium 365®のコンテンツ共有と管理コンテンツの機能を使用すれば、チームと安全にデータを共有できます。Altium Designerで設計を認証した後は、回路図、シミュレーション データ、コンポーネント モデル、その他プロジェクトで必要なデータを簡単に共有できます。Altium DesignerとAltium 365プラットフォームを併用すると、シミュレーションのワークフローは以下のようになります。

回路図からのEMIフィルター シミュレーション

SPICEベースのシミュレーターが統合された回路図エディターにより、EMIフィルター シミュレーションを簡単に作成できます。Altium Designerの統合環境では、時間領域や周波数領域のアナログのシミュレーション結果を即座に生成できます。デザインの認証段階では、[Components] パネルから各種のデバイス ライブラリにアクセスして回路図を簡単に作成できます。また、カスタム シミュレーション モデルを作成してカスタム コンポーネントとしてインポートし、EMIフィルター シミュレーションで使用することも可能です。

下の画像は、EMIフィルター シミュレーションに使用される回路図です。電圧ソースの後に入力フィルターが置かれ、フィルターコンデンサー (C1) とRCシャント ネットワーク (C2) との間にあるフェライトビーズ (L1) に接続されます。さらに、ACフィルターを適用するため、2つの出力コンデンサー (C3、およびC4) が含まれています。この図には、コンデンサーC1 ~ C4のいくつかの標準的なESL値と、フェライトビーズ モデルの寄生容量、および並列抵抗が記載されています。コンデンサーのESR値は無視されていることに注意してください。これらの値は一般にmΩの範囲なので、このシミュレーションには影響を及ぼしません。

EMIフィルター シミュレーションの回路図
EMIフィルター シミュレーションの回路図

EMIフィルターの出力は、1MΩの負荷に接続されます。電力網からの60Hz AC信号と、それに重ねられる高周波数のノイズ(放射、リップ、伝導のいずれでも)が、このEMIフィルターによってどのような影響を受けるかを調べます。これには、2つの方法があります。

  1. 時間領域でランダムノイズを生成して過渡解析を行い、このノイズがどのように出力に伝搬されるかを調べる。 
  2. 周波数領域で回路の応答を調べ、EMIフィルターの伝達関数を使用して回路の結合寄生成分による共鳴を特定する。

上に示した回路は純粋に線型で、任意のAC信号について伝達関数が十分に定義されているため、ここでは、後者の手法を使用します。

ステップ1: 共鳴の識別

下の画像は、DCから1MHzまでの初期周波数スイープから得られた結果です。明瞭化のため、X軸の下限は1kHzに設定されています。この大まかなシミュレーションでは、出力信号に50mVの入力AC正弦波が見られ、このEMIフィルターの共鳴を識別するために使用されます。下流のスイッチングレギュレーターや上流の整流器で生成されるような広帯域ノイズをフィルターで除去するため、これらの共鳴を識別して可能な限り減衰します。

EMIフィルターシミュレーション: 初期周波数スイープの結果
EMIフィルターシミュレーションの回路図

上述の結果により、大きな共鳴を引き起こしているコンポーネントが識別されました。これらの共鳴から、どのノイズの成分(特定の周波数)が出力に大きな電圧スパイクを生み出す可能性があるかが判明します。約22kHzの共鳴が非常に激しく、ゲインが10近くに達します。言い換えると、この特定の共鳴と重なる狭帯域のノイズがわずか1uVでも、同じ帯域幅で測定すると、出力に50mVのスパイクが発生します。これは、出力に許容されるリップルを簡単に超過します。さらに、整流器により発生するスイッチング ノイズや高次高調波によりこの共鳴が励起され、近接場プローブによるEMI測定で強いノイズが発生します。

C1共鳴は十分に大きいため、C1と並列(L1の前)にRCシャント ネットワークを追加するか、C1と直列に多少の抵抗を追加することで減衰できます。L1共鳴とC3 + C4共鳴はいずれも、これら2つのネットワークと直列に抵抗を追加することで減衰できます。

ステップ2: C1共鳴の減衰

上のプロットにあるC1共鳴は、小さな抵抗を直列に追加して減衰できます。下に示されているのは、フィルターのC1脚部に1kΩの直列抵抗を追加した場合の周波数スイープの結果です。この直列抵抗によってC1共鳴が減衰され、フィルターの伝達関数で確認できないレベルまで減衰していることがわかります。しかし、550kHz付近の共鳴が10に近い大きなゲインであるという新しい問題が発生します。これは、応答性コンポーネント間のカップリングとその寄生成分から発生するもので、複数の応答性コンポーネントを持つ複雑な回路では一般的な動作です。こちらの記事には、その顕著な例が示されています。

C1共鳴を減衰したときのEMIフィルターシミュレーション結果
EMIフィルターシミュレーションへのダンピングの追加

ステップ3: 20kHzと550kHzの共鳴の減衰

残りの共鳴を減衰して排除するには、L1とC3との間に直列抵抗を追加します。必要な減衰を実現するにはごく小さい抵抗で十分です。理想的には、これらの共鳴を減衰するために必要な範囲で、可能な限り小さな抵抗を使用して、電力が低下しないようにします。以下は、10Ωの直列抵抗(RD)を追加した回路図です。

直列抵抗を追加して修正した回路図
EMIフィルターシミュレーションの回路図に抵抗によるダンピングを追加する

ここでは、パラメータースイープでRDの値を変更し、20kHzと550kHzの共鳴を減衰するために最適な値を特定します。下に示されるように、非常に小さなRDの値で両方の共鳴を十分に減衰できます。RDの値を1 ~ 6Ωまでスイープします。20kHzの共鳴は、数Ωの直列抵抗だけで完全に減衰されます。550kHzの共鳴も抵抗の追加によって大幅に減衰されます。

EMIフィルターシミュレーションでさらに減衰が行われるように直列抵抗を追加する
EMIフィルターシミュレーションにダンピングを追加する

これらの共鳴を減衰するときに電力伝達を犠牲にしないよう、約2Ωの抵抗を使用することにします。最終的な決定要因はEMIテストで、その結果をCISPR標準と比較してEMI/EMC準拠を判定する必要があります。

ステップ4: Altium 365での共有

EMIフィルターのシミュレーションが完了したので、Altium 365 workspaceに移行して共同作業者と共有します。作成したEMIフィルターモデルを含む回路図にはチームの全員がアクセス可能で、Altium Designerで独自のシミュレーションを実行できます。Altium 365で設計データの共有と共同作業を行えるため、電子メールでやり取りする必要はありません。

概要

この記事では、Altium Designerを使用してEMIフィルターシミュレーションを作成、実行し、Altium 365で結果を共有しました。プロジェクトが正式にリリースされると、共同作業者はシミュレーション結果を含むSDFファイルをダウンロードし、独自の解析を実行できます。

上記の周波数スイープの結果では明白でないかもしれませんが、独自のEMIフィルターには阻止帯域が存在する可能性もあります。これは、減衰された回路のポールゼロプロットで、より容易に確認できます。この種の解析では、EMIフィルターの伝達関数を調べ、伝達関数の臨界点を計算します。

上述の手順はEMIフィルターシミュレーション用のものですが、Altium Designer®の統合シミュレーション機能では、他の種類のフィルターや回路の設計でも同じプロセスを使用できます。PCBレイアウトで設計を開始する準備が整ったら、回路図を新しいレイアウトとしてすばやく設計し、Altium 365プラットフォームでいつでもプロジェクトデータを共有できます。

Altium 365は、ソフトウェア開発の分野において前例のないレベルで電子機器業界との統合を実現しており、設計者は自宅でもこれまでにないほど効率的に作業を進めることができます。

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筆者について

筆者について

Zachariah Petersonは、学界と産業界に広範な技術的経歴を持っています。PCB業界で働く前は、ポートランド州立大学で教鞭をとっていました。化学吸着ガスセンサーの研究で物理学修士号、ランダムレーザー理論と安定性に関する研究で応用物理学博士号を取得しました。科学研究の経歴は、ナノ粒子レーザー、電子および光電子半導体デバイス、環境システム、財務分析など多岐に渡っています。彼の研究成果は、いくつかの論文審査のある専門誌や会議議事録に掲載されています。また、さまざまな企業を対象に、PCB設計に関する技術系ブログ記事を何百も書いています。Zachariahは、PCB業界の他の企業と協力し、設計、および研究サービスを提供しています。IEEE Photonics Society、およびアメリカ物理学会の会員でもあります。

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