私は、エレクトロニクス分野での自分のキャリアのほとんどを、中小企業やスタートアップ企業と協力することに費やし、彼らがアイデアを物理的な製品の形にするのを支援してきました。ほぼすべてのクライアントが抱えており、私が何度も見てきた誤解は、電磁両立性コンプライアンスに関するものでした。多くの企業は、自社製品にEMCテストが必要であることを知りませんでした。また、認証にかかる期間と費用や、要件が自社の製品にどう適用されるかを把握していない企業もありました。
認証について知っていた人でも、自社製品にWi-Fi、Bluetooth、その他のRFトランスミッターやトランシーバーが搭載されていないため「RFテスト」を受ける必要はないと、その多くが誤って信じていました。また、数十あるいは数百の基板だけを製造する企業であるから、認証を受ける必要はない、または認証を受けなくても問題ないと考える人もいました。中でも驚きだったのは、市販の電子基板(Arduinoやブレークアウト基板など)を使用し、それらをすべて筐体に配線するだけの企業なので、デバイスを認証する必要がないと考える人がいたことです。
ほぼすべての国には、独自のEMC規制と認証要件があります。国境を接している国同士や、ある国の認証/規制当局が規制の策定を主導している場合は、各国の規制が類似する可能性があります。例えば、カナダと米国には非常に似た要件があり、またヨーロッパのほとんどの国では、CE規格への準拠のみが要求されます。製品を販売する地域ごとにデバイスを認証する必要がある場合に比べ、共通の要件を定めることで認証プロセスが簡素化され、コスト効率が高くなります。また国によっては、自国内のラボで規制に照らして製品をテストすることを義務付けている国もあります。その場合、テスト用のデバイスを複数のラボに送る必要があるため、認証取得の費用と時間が大幅に増加する可能性があります。
この記事では、特に非意図的な放射機器、つまり意図的なRF放射のないデバイスに焦点を当てています。何らかの放射を発生させることなく、電子回路を構築するのは不可能です。導体に可変電流が流れる際には常に磁場が発生し、電磁エネルギーが放射されるからです。これらの放射が、指定された制限値を確実に下回るようにすることで、他のデバイスや無線信号に干渉しないようにするために、規制や指令が存在しています。
EMC規制がなければ、不適切に設計されたデバイスによって無線通信が不可能になる環境が生じ、接続されている他のデバイスや付近のデバイスの機能を、損傷または破壊する可能性があります。こうした規制がなければ、携帯電話、無線による航空管制、Wi-Fiによるインターネット接続、衛星通信など、電磁波を利用したあらゆる種類のテクノロジーが利用できなくなる可能性があります。
極端な例を挙げていると思われるかもしれませんが、未認証のデバイスが無料放送のテレビ信号を妨害し、そのデバイスと同じ建物内で一部のチャンネルの信号品質が低下して視聴できなくなったり、付近のCBラジオが機能しなくなったこともあります。極端な例ですが、Makerのイベントでは、テストを一切受けていない高周波・高アンペアのモーターを備えたロボットのせいで、ペースメーカーを装着した年配の男性が困難な状況に陥り、ロボットの電源を切ることになったのを目にしました。
こうしたことが、企業とその製品にどう関係するのでしょうか?産業施設に設置する単一のユニットを作成している場合はどうすればよいでしょうか?Tindieで販売するブレークアウト基板を作成している場合は?欧州委員会の電磁両立性指令のウェブサイトを引用すると、「機器(装置および固定設備)は、市場に投入され、および/または使用される際に、EMC要件に準拠する必要がある」とされています。
1台のデバイスを1回限りの使用のために販売する場合でも、100万台のデバイスを製造して流通させる場合でも、機器の認証を受けることが法的に義務付けられています。この要件は、PCBを作成するのではなく、複数の既製の基板を1つの筐体に組み立てる場合にも適用されます。同様の要件は、米国(FCC認証)、カナダ(ISED規制)、およびその他のあらゆる国で適用されています。
規制に関して、何もせずに切り抜けられると考える人はいるかもしれません。しかし、私が過去に仕事をした小規模のクライアントは、過去に製品のコンプライアンス文書の欠如を摘発されていました。そのうちの1つは、年間の販売数がわずか数百台という米国の個人事業主で、注文品をヨーロッパの代理店に発送していましたが、仕向国の税関が、CE書類が提示されるまで発送を保留したのです。
別の企業は、意図的な放射機器(RF製品)を販売しており、この取扱量も少量でしたが、未承認の製品を販売したとしてFCCから数十万ドルの罰金を課されました。販売量が少なくても、製品が規制当局の目に留まった場合、逃れることはできません。
製品の認証を受けることは、コンプライアンス違反によって製品が破棄されたり、罰金を科されたりするよりも、はるかに安上がりなのは確かです。
最終的には、認証を希望する規制機関が承認または認可したラボに、自社製品を送付する必要があります。しかし、必要なサービスを提供するラボを予算内で見つけるのは困難な場合があります。スケジュールが許すなら、エレクトロニクスの展示会に足を運んでみるのも一案です。さまざまなラボのエンジニアと話す機会が得られるため、たとえ遠方でも、そのために出張する価値があるはずです。また、電子機器の製造/組み立てのビジネスに焦点を当てた比較的小規模な展示会では、複数のラボから代表者らが参加している可能性があります。
最も安い見積もりを提示した会社が、必ずしもテストに最適とは限りません。特に初めて手続きを行う場合は、認証プロセスにおいて、かなり緊密にラボと連携する必要があります。理想的には、テストを実施するラボに、製品の開発プロセス全体を通じて協力してもらうのが望ましいと言えます。試作品を開発するときは、ハードウェアを持参してラボを訪問するか、ハードウェアをラボに送付して、試作品の事前準拠テストを行います。
試作品を早期にテストすることで、問題が見つかった場合にハードウェアにタイムリーな変更を加えることができるので、最終製品だけをテストに送る場合と比較して、貴重な時間と費用を節約できます。問題が見つかった場合、優れたラボのエンジニアは、単に不適合だと伝えるのではなく、豊富な経験に基づいて問題の解決方法についてのアイデアを提供してくれるでしょう。さらに良いことに、事前準拠テストに直接赴くことで、こうした提案の一部をその場で実装し、すぐに再テストすることができます。それにより、問題を列挙したリストではなく、変更点を列挙したリストを持ってオフィスに戻ることができるのです。
北米およびヨーロッパで製品の販売を計画している場合は、米国のFCC認証、カナダのISED規制、および欧州のCE EMC指令要件への準拠をテストすることから始めるとよいでしょう。これにより、製品の潜在顧客の大半がカバーされるはずです。世界中の政府によって定められたEMC規制は似たものではありますが、まったく同じではありません。例えば、オーストラリアやニュージーランドで製品を販売する場合、AS/NZS EMC規格のテストも必要になる場合があります。オーストラリアとニュージーランドは相互認証協定を結んでおり、すでにテストしているEU EMC指令が適用される可能性があります。
動作モードが1つ、AC主電源接続が1つ、信号/IOポートがないシンプルな非意図的放射機器の場合、FCCおよびカナダISEDのEMCコンプライアンステストでは、およそ2000ドルの費用がかかり、さらにCE EMC指令コンプライアンステストも実施する場合は、追加で4500ドルかかると予想されます。ただし支払う金額は、使用するラボやテストするデバイスによって異なります。
充電機能のないバッテリー駆動のデバイスの場合、AC主電源テストが不要になるため、費用が安くなります。一方、複数の動作モードまたはテストが必要な信号/IOケーブルを備えたデバイスでは、追加のテストが必要になるため、費用が高くなります。テスト施設の設立には数百万ドルの費用がかかり、通常は、かなり高額の時給で経験豊富なエンジニアが配置されます。したがって、デバイスのテスト計画が複雑または長期になるほど、費用も高くなります。
デバイスが、事前に承認された無線モジュールを使用しない無線機能を有している場合、またはユーザーマニュアルおよび認可の付与に明記されているような使用規則外で事前承認されたモジュールを使用している場合は、追加費用を払って無線テストを受け、デバイスを認証する必要があります。そのため、認証済みモジュールのユーザーマニュアルやデータシートを確認し、使用するアンテナ(外部アンテナが必要または許可されている場合)が具体的に記載されているか、また電源やレイアウトの要件が明示的に守られているかどうかを確認することが重要です。
さらに、マニュアルで指定されている動作モードと電力レベルのみでモジュールを使用していることを確認してください。これらの要件に従わない場合、モジュールの使用は事前承認済みと分類されず、デバイスを意図的放射機器としてテストしなければならなくなります。
理想的には、コンプライアンステストの実施は、最初の試作品段階での事前テストから始まります。テストを行うラボが遠方の場合は、試作品やデバイスをすべてのケーブル、アクセサリー、および操作説明書とともに郵送すると、ラボにおいてセットアップを行い、テストしてもらうことができます。
カナダのQAI LabsのSimon Howkins氏とParm Singh氏は、できるだけスムーズにテストを行うために、次のことを提案しています。
EMCラボで製品のコンプライアンステストを実施する際は、十分な準備をしておくことをお勧めします。想定外のことに備えてください。通常考えられる最悪の動作モードで継続的に動作している、完全に動作可能なデバイスを持参してください。デバイスに複数の動作モードがある場合は、それらをすべて事前にスキャンして、最悪の場合のモードを決定する必要があります。デバイスの動作に補助装置またはサポート装置が必要な場合は、その装置もラボに持ち込んでください。
実際の補助装置やサポート装置を持ち込むことができない場合は、シミュレートされた負荷や補助装置を使用する必要があります。最初のテストでは製品が合格しない可能性が非常に高いため、EMC規制に準拠するには、製品に変更を加えなければならない場合があります。ラボでこれらの変更を行うために、必要なツールとコンポーネントをすべて持参してください。これには、フェライト、RFフィルター、シールド材、コンデンサー、コイル、抵抗器、および修正に必要なツールなどが含まれます。
忘れられがちなツールは、鋭利な予備刃の付いたExactoスタイルのナイフです。鋭利なExactoナイフを使用すると、小さなトレースを簡単に切断したり、ソルダーマスクをこすり落としてソルダーパッドを作成したりできるため、必要に応じてコンデンサーを追加したり、回路に他のコンポーネントを追加したりすることができます。
QAI LabsのHowkins氏に、EMC認証の準備を成功させるためのコツをいくつか紹介していただきました。
スタートアップ企業のEMCラボでよく見られる失敗は、設計サイクルの初期段階でEMC設計の優れた点をデバイスに取り込んでいない、デバイスのテストや認証に必要となる十分な時間をスケジュールに組み込んでいない、デバイスのテストや認証を最終段階になって行う、事前スキャンテストの初日にラボに来た時点で準備ができていない、などが挙げられます。
Andy Eadie氏の無料の電子書籍「Get EMC Design Right First Time(EMC設計を最初から正しく行う方法)」は、優れたEMC設計を最初から組み込むのに役立つ優れたリソースです。私はこの本を多くのクライアントに勧めてきましたが、どのクライアントも、本書のアドバイスは分かりやすく役に立つと言っています。プロジェクト計画の中で、設計サイクルにおける試作品の事前準拠、事前スキャン、または予備的なR&Dテストに時間を割り当てることで、デバイスが規制に対してどのような状況にあるかを判断することができます。
ラボのスケジュールによっては、事前準拠テストを完了してからすべての認証テストの実施までに時間がかかる場合があります。EMCコンプライアンステストを最終段階まで放置して、デバイスが不適合であることが分かった場合、製品の製造がすでに開始されていて変更が必要になると、費用が膨らむ可能性があります。言うまでもなく、新しく試作品を作ってテストすることになれば、期限に間に合わなくなる可能性があります。
EMCラボが近くになく訪問が難しい場合は、製品または試作品を、セットアップ方法の指示を添えてラボに郵送することで、テストしてもらうことが可能です。
私は4年ほど前から、Andy Eadie氏の「EMC Fast Pass(EMCに素早く合格)」という電子書籍とトレーニングコースをクライアントに勧めています。これらは、EMCコンプライアンスと設計について、非常に分かりやすいガイドを提供しています。私は同氏に連絡し、この記事の執筆にあたって最も重要なヒントを尋ねました。その返答は次のようなものです。
PCBレイヤースタック
EMCテストに合格するようなPCBを設計する場合は、適切なスタックアップ構成を選択することから始めるとよいでしょう。最も重要な点の1つは、すべてのデジタル(スイッチング)信号に対して、隣接するレイヤーに切れ目のない基準プレーン(GNDまたはPWR)を常に配置することです。配線が密集しすぎてこれができない場合は、さらに2つのレイヤーを追加します。
デカップリングコンデンサー
すべてのICおよびコネクタ電源ピンに少なくとも1つのデカップリングコンデンサーを設けます。現在推奨されているベストプラクティスは、コンデンサーの値を100nFなどの1つの値に標準化することです。これにより、パワープレーンの共鳴が誤って発生するのを防ぐことができます。
基板外および基板間の低速通信に直列抵抗を追加
これは便利な方法です。パラレルLCDバスやSPIなどの低速通信インターフェースの場合は、基板から出る前に各トラックに0オームの直列抵抗を組み込みます。基板が放射テストに不合格になった場合は、代わりに10R-33R終端抵抗を実装すると、高調波を減衰させて放射を減らすことができます。
すべてのSMPS入力にπフィルターを搭載
SMPSの電圧入力にEMIフィルタがないと、設計が伝導放出テストに合格しない可能性が高くなります。各SMPSへの入力には、πフィルターなどのEMIフィルターを必ず含めてください。
個人的には、EMCコンプライアンスの設計に慣れていない場合は、3つ目のヒントをさらに一歩進めて、追加のコンデンサー、フェライト、その他のフィルターコンポーネント用のフットプリントを基板に追加することをお勧めします。基板にフットプリントを追加するのは、少しのスペースが必要なだけで費用はかかりません。ただし、それらの追加や、場合によって基板のレビジョンを行う場合は、時間と費用がかかる可能性があります。また大量生産された市販の基板には、パッシブが欠落したものを多く見かけます。コスト削減のためにこれらのコンポーネントを取り除いたと思われるかもしれませんが、エンジニアがEMCに問題があるかもしれないと考え、安全策としてフットプリントを追加した可能性もあります。
本記事の執筆にあたり、QAI LabsのEMCセールスエンジニアであるSimon Howkins氏と、EMC部門ディレクターであるParm Singh氏から思慮深いアドバイスを頂きましたので、お礼申し上げます。さらに、「EMC Fast Pass」のAndy Eadie氏による優れた電子書籍とトレーニングは、何年も前から私の貴重なリソースとなっており、最近では上記のようなヒントもいただきました。EMC認証は、優れた設計の実践を超越した、非常に複雑な主題です。世界的なEMC規制には非常に多くの微妙な違いがあるため、この点に関してプロジェクトを成功させるには、専門家と協力することが理にかなっています。QAIなどの企業を早い段階でプロジェクト計画に組み込むことで、製品開発に集中できるようになり、コンプライアンステストによるストレスが大幅に軽減されます。自社のビジネスに関連するEMC設計とテストの経験を積むにつれて、事前準拠テストや専門家からの指導はそれほど必要ではなくなりますが、それでもプロジェクト計画に組み込むことを常にお勧めします。
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