十分に考慮されたシステムベースの電子機器設計

Judy Warner
|  投稿日 2021/07/29, 木曜日  |  更新日 2024/07/1, 月曜日
十分に考慮されたシステムベースの電子機器設計

最近、Pegmatis社の共同創設者にして管理パートナーであるDr. Ed Becze氏に会う機会がありました。Becze氏は長く輝かしい職歴において、業界を代表する大手テクノロジー企業から小さなスタートアップ企業に至るさまざまな組織のために、非常に複雑なシステムの設計に取り組んできました。また、長年にわたり、非常に高度な技能を持つエンジニアリング チームを作り上げてきました。チームは、製品設計の着手から完成まで、あらゆる要素をカバーしています。このインタビューでは、真に包括的な設計の重要な要素と、プロジェクトを成功に導くための重要な要因について紹介します。

Judy Warner: 
Ed、まずお聞きしたいのですが、Pegmatisという社名にはどのような意味があるのでしょう?また、あなたの会社はどのような種類のサービスを行っているのでしょうか?

Ed Becze: 
Pegmatisという名前は、ラテン語で「足場」という意味の単語である「Pegmata」から取ったものです。当社は熟練した研究開発企業で、製品設計の全工程を遂行する能力を1社で保有しています。当社には機械、電子、無線、ファームウェア、ソフトウェア、システムレベルでのテスト、検証の専門家が所属しており、困難で非常に複雑な製品を開発する上で必要なエンジニアリング分野の全てを網羅しています。 

当社はクライアントから、単なるエンジニアリングの「サービスプロバイダー」ではなく、技術開発の「パートナー」と見なされています。つまり、当社はエンジニアリング サービス以外にも多くの価値をお客様に提供しているのです。お客様が自社のビジネスと製品ソリューションとを同期できるよう支援するとともに、お客様が市場での地位を固められるよう、IPの革新と生成を支援します。当社がこのような支援を行えるのは、広範な製品を供給してきた多くの経験のおかげです。さらに、当社は技術的なギャップを埋めるために対象を絞ったサービスを提供することも、包括的な製品設計開発を担当することもできます。

Warner:
優れた製品開発プロセスの基礎となるのは何でしょうか?

Becze: 
まず、システムレベルの要件として、パフォーマンス、機能、規制、数量、スケジュールなどを検討します。これらの要因すべてはビジネスの必要と同期し、問題に対処するか、市場に新しいソリューションを供給する必要があります。要件の重要性を過小評価してはいけません。

要件を策定するときは、お客様がその機能に料金を払いたいと思うかどうかを常に考慮し、データを基に要件策定を進めます。正当な理由がないのに、独断で要件を決定してはいけません。

PCBの設計を始めるよりずっと前の時点で、次の点について検討します。

  • 技術やスケジュールのリスクを評価し、戦略を立てられるようにします。
  • 十分な考慮の上で開発計画を作成し、早い段階で危険を軽減します。
  • 部品、入手可能性、ベンダーの能力を把握するため、早い段階でベンダーとサプライヤーの関与を求め、ベンダーとサプライヤーが製品、および生産のロードマップと従っていることを確認します。

Warner: 
リスクを把握することがなぜ重要な要因なのでしょうか?

Becze:
リスクは一般に、製品開発のスケジュールの不確定要素を生み出すもので、エンジニアリング予算の超過の主要な原因です。技術的なリスクを軽減すれば、開発方針、および下流工程での偶発事態への対処計画を作成し、理解するため役立ちます。これは貴重な時間と労力を余分に費やす作業に思えるかもしれませんが、長期的には必ず時間と労力の軽減に結びつきます。未知の要因は長期的に損害をもたらすため、早期段階でそれらを特定し、的確な計画を作成します。

一般に、スタートアップ企業が構想を作り上げ、かつ幸運にも投資を呼び込むことができたとしても、その構想はたいてい誇張されたもので、技術的なリスクを軽減するための戦略はほとんど立てられていません。それが計画に織り込まれていれば、能力と見通しを示す証拠となり、投資家や経営者が評価できるものとなります。

Warner:
あなたは、多くのスタートアップ技術企業と仕事をしてきました。ほとんどのスタートアップ企業はどのように開発を行うのでしょうか、そして、多くの企業が失敗する理由は何ですか?

Becze:
大半のスタートアップ企業は、私たちが「デモによる開発」と呼ぶものを行っており、事前の要件にはほとんど注意を払っていません。フィードバックは常に投資家や調査のために選定された消費者のグループなどから得られるため、試作の段階で大きな変更があるのが一般的です。意見や提案が果てしなく交わされますが、多くの場合は十分な情報に基づいたものではなく、設計 (ソフトウェア、またはハードウェア) への連鎖的な影響が熟慮されることはほとんどないため、正当な反論が行われることはめったにありません。組織が行うべき作業について経験を持つ、知識のある人物がいれば、最初の話し合いでフィーチャークリープ (仕様の煩雑化) を簡単に抑えられます。  

また、どのプロジェクトでもスケジュールが固定されているため、期限を満たすには何かを犠牲にする必要があります。多くの場合は検証とテストの段階が犠牲になります。絶対不可欠な工程にもかからわずです。当社の経験から、スタートアップ企業は、包括的なリスク評価を怠ってしまいがちです。これは多くの場合、システムレベルでの設計経験が不足しているためです。  

電子機器の設計に関して言うと、多くの企業は自社が優れた技術経験を保有しており、完全なソリューションを扱うことができると信じています。しかし、どれだけ高い技能があっても、システムレベルの開発や、設計する製品に関する直接の経験が不足していれば、重要な点をいくつか見落とすことになります。しっかりとしたデザインルールの核心となる部分を深く掘り下げる。これは設計者にとって不可欠な作業です。ここには、パフォーマンスに関連するルールに加えて、IPC標準、機構的、および製造上の制約、テストと規制のルールなどが含まれます。いずれも、製品開発のライフサイクルにおいて極めて重要な役割を果たします。多くの経験を積めば、従うべき正当かつ有用なガイドラインを直感的に把握できますが、そのためには、長い期間にわたって繰り返し設計を経験する必要があります。 

読者の皆さんは、自分はデータシートやメモを読むことができると考えているでしょうが、チップセットのプロバイダーのうち、従うべき適切なデザインルールを用意している企業はわずか5%です。それ以外の場合は、必要な知識を自分で試行錯誤して習得するか、正しい道筋を教えてくれる人を探すしかありません。重要なのはこの部分で、うまく対応できれば大いに希望が持てます。  

しかし、最初の設計に問題点があり、次のレビジョンでも修正されていない場合はどうなるでしょうか。経験を積んでいれば、障害の原因を絞り込み、正しい問題解決に集中できます。ベンダーが早い段階で関与しておくことが重要だと先ほど言いました。ベンダーが早期から関与すれば、ハードウェアが設計の意図に沿って製造されることを保証するような適切な製造方法を提示し、分析対象の高品質のプラットフォームを提供してくれるかどうかを見極めることができます。  

当社は、障害のあるハードウェアのため、際限のないトラブルに見舞われている顧客を目にしてきました。彼らが私たちのもとを訪れるのはこういうときです。そこで当社は、設計と製造方法の両方のレビューを行う必要がありました。非常に有能な技術者が、問題を追いかけながら、ハードウェアに関連する問題なのか、設計に関連する問題なのか、はたまたファームウェアに関連する問題なのかがわからず、自分の能力に疑問を持ち始めるのを見るのは本当に悲しいことです。私からのアドバイスは、難局に突き当たったら実力者に頼ってしまえ、です。多くの経験を積んだ企業は、設計者を迅速に支援し、正しい方向性に導いてくれるものです。
            
Warner:
設計上の決定を行う前にベンダーと製造業者の関与を求め、その能力と契約上の合意を完全に明確にしておくことの重要性について言及されていましたが、最初の時点でこのような種類の明確化を行うことには、どのような価値がありますか?

Becze:
ベンダーや製造業者が早期に関与すれば、彼らの能力を十分に把握し、その能力やプロセスに従って設計上の決定を推進できるようになります。ベンダーや製造業者がテストと検証のシステムを保有しているかどうかを把握しておくことは極めて重要です。例えば、無線テストのソリューションは非常に高価なものです。 

また、国外での生産能力があるかどうかも確認しておく必要があります。これにより、特に生産段階でコストを削減できます。また、彼らは試作と量産の両方を対応してくれるか?電気製品の開発を支援し、製品化の準備が整った段階での引き渡しに備えてくれるか?品質の高いハードウェア製品を得るために必要な、健全で受け入れ可能な取り扱い/プロセス/製造手段を備えているか? システムレベルの部品について、例えば機械的部品の優先サプライヤーなど、他のベンダーを見つける際に支援してくれるか? なども確認しておきます。 

多くのスタートアップ企業は運用管理の部分が非常に弱く、追加サポートを必要とします。能力があるベンダーを見つけることは非常に困難で、この点についてはCMやEMS企業の支援を受けられる可能性があります。この点については、サポートのネットワークが何より重要です。それに加えて、大規模な量産に移行するときは、購入価格の差異を活用できるかどうかを調べるべきです。国外でのサポートについてはどうでしょうか?また、高品質のフィードバックや改良点の提案のような支援は受けられるでしょうか?ベンダーの選定は極めて重要な作業で、徹底した評価を行う必要があります。

Warner: 
コンポーネントの不足から、強力なサプライチェーン パートナーとインテリジェンスの重要性が注目されるようになりました。しかし、コンポーネントが不足していない場合でもそれが重要な理由は何でしょうか?

Becze:
優れたサプライチェーン パートナーは、明確な問題点に対処するため役立ち、ほとんどは製品の要件を満たすのが非常に困難な場合に、構造上のサポートも行ってくれます。例えば、ボタンについて考えてみましょう。これらは設計における非常に複雑な問題点で、強力なサポートを必要とします。接続されたモジュールに関する情報は、コストベース、およびFWサポート ソリューションの提供において決定的な要因となり得るものです。 

革新を生み出す新しいテクノロジーを認識しておけば、他に無いソリューションをいち早く市場に投入することができます (例えば、当社はBLE 5メッシュ製品の動作する試作を、CESで公表される8日前に作成しました)。大規模なベンダーは膨大な製品ラインを保有している可能性が高く、専門的なソリューションを構築する上で頼れる存在になってくれます。全ての皆様に対して、AliBabaなどサイトで部品を探すことはしないよう強くお勧めします。これは、ほとんどの場合、重大なトラブルに直結します。

Warner:
こうしたことについては、いくつかすでにお話しいただいていますが、十分な考慮に基づいて設計を行わなかった場合には、どのようなコストが考えられるでしょうか?

Becze:
それを話し出したら、きりがありません。(笑) 

そうですね、簡単に挙げてみましょう。

  • 下流の他の関係者の状況を十分に把握できず、製造業者への実際の合計コストを十分に理解していないため、予測しないコストが発生するのは、常に大きな問題です。 
  • インライン テストが不可欠にもかかわらず計画されていないことも、大きな問題を引き起こす可能性があります。 
  • 設計のテストの準備について熟考していないと、コストとトラブルシューティングの時間に確実に影響を及ぼします。また、これは非常に悪い習慣でもあります。 
  • 市場投入までの時間が悪影響を受けます。 
  • 貧弱なDFAやDFMのせいで、製造コストが増大、または過剰になる可能性があります。
  • 輸送コストやパレット輸送のコストが計画に含まれていないことがあります。
  • ⦁状況によっては、製品やビジネスが成熟するにつれ、コストの高いプロセスや設計の特性に後から対処することが必要になりますが、このようなビジネス上の決定は十分な検討の上で行う必要があります。

Warner:
本日は貴重な見識をお聞かせいただき、ありがとうございました。 

Becze:
どういたしまして、Judy。私たちが学んだことを他の多忙な技術者に伝えることで、ハードウェア設計の複雑な環境での作業に役立つことを願っています。私の話が、皆さんの業務のトラブルを少しでも回避するお役に立てば幸いです。

筆者について

筆者について

Judy Warnerは、25年以上にわたりエレクトロニクス業界で彼女ならではの多様な役割を担ってきました。Mil/Aeroアプリケーションを中心に、PCB製造、RF、およびマイクロ波PCBおよび受託製造に携わった経験を持っています。 また、『Microwave Journal』、『PCB007 Magazine』、『PCB Design007』、『PCD&F』、『IEEE Microwave Magazine』などの業界出版物のライター、ブロガー、ジャーナリストとしても活動しており、PCEA (プリント回路工学協会) の理事も務めています。2017年、コミュニティー エンゲージメント担当ディレクターとしてAltiumに入社。OnTrackポッドキャストの管理とOnTrackニュースレターの作成に加え、Altiumの年次ユーザー カンファレンス「AltiumLive」を立ち上げました。世界中のPCB設計技術者にリソース、サポート、支持者を届けるという目的を達成すべく熱心に取り組んでいます。

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