どんなPCBでも、優れた設計と製造にはデータ管理がつきものです。各PCBプロジェクトには、コンポーネントやフロントエンド回路図、物理レイアウト、製造ファイルに関する大量のデータが含まれています。お使いのPCB設計ソフトウェアには含まれていない他のドキュメントが必要となるかもしれません。不完全なデータや古いデータを使うと想定通りの設計ができなくなるため、設計者はこれらのデータをすべて追跡、管理する必要があります。
PCBデータ管理では、複数の領域にまたがる要件と設計情報を扱います。まず、最終製品がどのように動作するか、またその仕様と許容差、動作環境についての機能要件があります。さまざまな形式(データシートや、設計ツールライブラリにデジタル保存されたものなど)で各コンポーネントに関連付けられたデータもあります。さらに、PCB自体、その材料特性、物理的レイアウト、生産要件に関するデータもあります。設計は必ずしもゼロから始まるとは限りません。以前成功した設計の一部を再利用しなければならない場合もあります。
設計者は、以下の重要事項を考慮しなくてはなりません。
この記事では、こうした事項を確認するために役立つ情報と、最新のツールがプロの設計会社やOEMのデータ管理プロセスをどのように変えているかについてご紹介します。
PCBデータ管理は、プリント回路基板の設計、製造、実装に使われるデータの取得、保存、検証、使用法、分配、維持など、幅広い範囲にわたる作業を指します。PCB設計プロジェクトにおいてデータが作成、取得されるのは、以下のような場合です。
設計プロセスの一部における、設計に関する決定は、筐体の形の変更などといったその他の要素にも影響を及ぼします。それによって、PCBコンポーネントが中に収まらなくなることもあります。操作環境を変更すると、異なる周囲温度やより高い振動レベルに対応できるような設計を行う必要が出てきます。論理回路セクションの設計は、異なる許容差を持つ電力供給に適したものでなければならなくなるかもしれません。想定される変更点は莫大な量となります。いかなる変更も突き止めるられるデータ管理プロセスは必須です。
これらの問題は、PCBレベルであろうと機械設計であろうと、新製品に関する共同作業を行う場合に拡大します。たとえば、仕様が変更されたことや、物理的または電気的特性が異なる別のコンポーネントが設計に入れ込まれたことなどを、設計チームの全員がプロセス内で確実に把握する必要があります。すべてのデータで、変更や新しい情報が追跡され、それが設計チームの全員が見られる共有システムにコンパイルされると、すべてのプロジェクト関係者が表示およびアクセスできるようになります。
この概念についてもう少し詳しくご説明します。データ自体の管理について取り上げる前に、どんな情報を取得すべきか、またこの情報をどこでどのように取得するのかについて見ていきたいと思います。 PCB業界にしばらくいた方なら、PCB設計の一般的なプロセスについてはほとんどご存じでしょう。ほとんどのPCB設計では始めに同じか非常によく似た情報を使い、ソースは多くの場合同じものです。栄養豊かな地面に植えられたどんぐりが大きな木に成長するようなものです。また、最初の情報こそプロジェクト全体の成功に大きくかかわってきます。PCB設計の最初に使う情報が正確でなければ、その設計も正確なものにならない可能性が高くなります。この段階で注力すべきは、情報の量よりも質であるということをしっかりと覚えておきましょう。
データは、PCB設計チーム、製品メーカー、外部請負業者、最終顧客を含むすべてのプロジェクト関係者によって作成、編集されます。このようなデータには以下が含まれますが、必ずしもこれだけに限定されるわけではありません。
こうしたデータはすべて追跡されなければなりませんが、そのすべてがPCB設計チームによって作成されるわけではありません。問題は、開発プロセスを通じてデータが変化することにあります。顧客は要求を変更するものです。その要求に対する設計チームの理解は、曖昧さの解消や思い込みによって変化することがあります。
すべてのデータが静的ではないとなると、データ管理はさらに難しくなるかもしれません。たとえば、コンポーネントの許容差や仕様は決まっていることが多いですが、その価格やリードタイムなどの動的データは日々変化する可能性があります。そのため、多くの企業が、在庫システムやサプライチェーンシステムと連携したPLM/ERPシステムを導入しています。これらのシステムは基本的にファイルストレージや共有システムですが、階層機能と分類機能が組み込まれているため、変更や新しいデータをプロジェクトレベル、ファイルレベル、コンポーネントレベルで追跡および管理できます。
コンポーネントのデータシートは、最も重要なドキュメントで、使用前に取得して検証しなければなりません。今後のプロセスのために非常に重要な情報であり、その内容には正確さが求められます。データシートが正しいという前提で完全に設計が行われたにもかかわらず、その情報が検証されなかったために後で問題が発生するという事例を非常に多く見てきました。結果は悲惨なものです。「信頼せよ、されど確認せよ」は、すべてのPCB設計者のポリシーであるべきです。CADモデルのソースやデータシートに記載されている内容によっては、フットプリントも正しくない場合があります。こうした情報も検証されなければなりません。この検証作業は従来PCBライブラリ管理者の職務です。
コンポーネントとPCBの仕様については、データシートは通常、製造元から取得され、信頼できる情報とみなされます。通常、データシートに改訂があった場合に発表されることはありません。そのため、設計チームは、最新バージョンを使用していること、共有領域にエラーの通知がないことを入念に確認する責任があります。それは多くの場合、エンジニアリングの経験と、正しいデータの提供に関して実績を持つ、信頼できるメーカーのコンポーネントを選択するということに帰着します。優れた策として、複数のベンダーからの利用可能な部品、各ベンダーのデータシートを比較して相違点を見つけることができます。さらに、過去にデータシートにのエラーが発生したベンダーは、信頼できる入手元から、追加の検証チェックが必要な入手元に認識を改めた方が良いかもしれません。
では、データシートの精度はどのように判断すればよいのでしょうか。最善策は、複数のソースで情報を確認することです。単一ソースの部品ベンダーとそのデータシートに依存しすぎないようにしましょう。コンポーネントのさまざまなソースとベンダーを見て、それぞれからすべてのデータシートを引き出します。その後、データシートを比較して、一致しているかどうかを確認します。
プロのアドバイス: 個人的には、検証をさらに次のステップに進めます。特定のベンダーからのデータシートを確認し、そのベンダーが提供する他の製品データシートにも問題があるかどうかを判断します。コンポーネントに問題があれば、他の製品にも問題があるかもしれないからです。
次のポイントはストレージです。データは取得後、保存して保護することが重要です。データ保存はコンポーネントライブラリのアーキテクチャによって実行されます。あなたのライブラリが他の人のライブラリとはまったく異なる構造になることは、事実上保証されています。しかし、コンポーネントライブラリがどのようなものであっても、いくつか重要なことを確認する必要があります。
まず、特定のコンポーネントをすばやく見つけることができる必要があります。それには、検索を最適化する命名構造や規則が直接影響します。最も難しいのは、命名規則がごちゃまぜになっているライブラリで探しているものを見つけることです。この問題に対する優れたリソースは、IPC-7251(スルーホールコンポーネント)とIPC-7351(SMTコンポーネント)の最新リリースです。これらの規格は、フットプリントの命名規則の非常に体系的な構造をカバーしています。標準パッケージ用にカスタムフットプリントが作成されるたびに、この規格を強制的に適用する必要があります。
次に、簡単に拡張できるアーキテクチャを持つコンポーネントライブラリが必要です。拡張しやすいアーキテクチャを持つライブラリであれば、会社が成長し、製品ラインが拡大するにつれて、ライブラリも成長し、設計の再利用に使える検証、認定済みのコンポーネントも拡大できます。
さらに、すべてのデータに影響を与える壊滅的な事態が発生するまでは、全データを照合して管理することをお勧めします。コンピューターがクラッシュしたりハッキングされたり、悪意のあるファイル共有サービスを介してデータが公開されたり、メールが削除されたり破損したりするリスクが存在し、こうした事態はすべて、知的財産を公開、紛失、破損することにつながる可能性があります。
上記の事項はすべて、コンポーネントリストをカテゴリおよびファミリーごとに安全な場所1か所にまとめることで実現できます。最新のクラウドプラットフォームでは、この作業が簡単になります。セキュリティとプライバシーを保ちながらデータを保存し、必要なカテゴリにデータをグループ分けして、検証、配布を行うことができます。
特定の関係者へのデータ配布は非常に重要であり、設計プロセスにおけるセキュリティの要となります。このことを考える際に、データの使用は組織の内部で行われ、配布は外部で行われるということを頭に入れておきましょう。データの配布では、セキュリティが不可欠であることを常に意識してください。データと設計プロセスから得られる重要な2つのパッケージは、製造と組み立てに関する情報です。基本的なルールとして、この2つはまったく別の経路で扱われ、決して交わることはありません。両方のパッケージを使える状況では、悪意のある人がそれらを使用して設計を複製する可能性があるためです.
検証の第1のルールは、作業を行った人物が検証する人物であってはならないということです。作業を行った人は、多くの場合、自分の間違いに気付かず、その結果、検証ステップでも間違いを見逃してしまう可能性が高くなります。新鮮な目線でデータを見ることができる別の人に検証を行ってもらうことが、常にベストプラクティスであると言えます。
検証プロセスは監査プロセスです。コンポーネントやデータの検証中は、リリース済みの設計でそれが使用されないように隔離する必要があります。つまり、PCB設計が製造用にリリースされる前に、すべての新しいコンポーネントに対して監査プロセスをしなければならないということです。そうすることで、PCB設計の整合性を保ち、またトラブルの元も取り除くことができます。
PCB設計プロセスでは、各段階で特定の情報を使用します。たとえば、回路図設計の段階では回路の流れと接続性を確認します。最も重要なものは、コンポーネントの回路図のシンボルです。たとえば、エレクトロニクスエンジニアは、特定の部品に関するパラメータデータを調べて、求められている製品の設計要件を満たしていることを確認します。
PCB側では、PCBフットプリントと3Dモデル情報のデータを確認します。このデータは、配線の要件と機械的要件を検証するために使用されます。基板製造業者が参加して作業を始めるのもこの段階からです。
データ管理の最終段階は、保守、レビジョン履歴の追跡、バージョンコントロールです。PCB設計で使用されるほとんどのデータは静的ではなく動的であるため、データは常に変更されていきます。つまり、どのような変更が発生し、データベースの更新プロセスにどのように影響するかを判断するための計画が必要となります。このようにして、お客様のデータは、会社のニーズだけでなく、変化し続ける電子機器業界にも常に関係しているのです。
課題の1つは、PCB設計のデータセットは通常、莫大で互換性のない素子が含まれている点です。電子系コンピューター設計支援(ECAD)と機械系コンピューター設計支援(MCAD)ツールに含まれるデータは、互いに対応していることはめったになく、もちろん、要件管理ツール内のデータにも対応していません。効率的なデータ管理には、設計チームが各ツールと管理下にあるデータライブラリをスムーズに手間なく連携できる、一元化された単一のソリューションが必要となります。
どのようなソリューションでも、さまざまなソースから入手した静的データと動的データの両方を、設計者が最新で正確であると依存できる信頼できる唯一の情報源に照合できる必要があります。このプロセスを自動化して、データ管理費を最小限に抑え、人的エラーを排除することは不可欠です。これにはサプライチェーンとのつながり、検証済みのコンポーネントデータソースの適用、設計プロセスでの一体型バージョンコントロールシステムの導入が必要です。
Altiumのようなソリューションを採用して、開発プロセスに一体型データ管理プラットフォームを導入することで、すべての設計データに適用できる効果的なデータ管理プロセスの優れた基盤を築くことができます。しかし、開発ライフサイクル全体で自動化されたプロセスを作成して、人的エラーを排除し、データセットの有効性を確保するには、さらにまだやるべきことがあります。動的データの変更を監視してデータセットの更新を管理することは手間のかかる作業になりかねません。誤ったデータや古いデータを使用した場合の潜在的な影響を考えると、この作業も自動化するのが理想的でしょう。
Altium Designer®でプロジェクトのデータを管理する必要がある場合、連携されたライブラリとデータベース機能を使用して、 Altium 365™ プラットフォームまたはオンプレミスのAltium Concord Proインスタンス独自のコンポーネントとプロジェクトを追跡することができます。この特別なデータ管理システムでは、プロジェクトのレビジョンごとに製造データを追跡することもできます。また、主要な販売会社からの最新のコンポーネントデータや、IHS Markitが提供するコンポーネントのライフサイクルステータスにもアクセスできます。
ここでは、Altium 365 と Altium Designer で何が可能か、その一部を紹介したに過ぎません。ぜひ、Altium DesignerとAltium 365をご検討ください。Altium Designerの無償評価版をを今すぐ開始しましょう。