製品ライフサイクル管理とは?

Mark Harris
|  投稿日 November 4, 2021  |  更新日 December 13, 2021
製品ライフサイクル管理とは

どの製品も、大体同じようなライフサイクルに従います。まず、製品開発のひらめきがあり、これが一連の製品要件に変換されます。次に、これらの要件をもとに設計が行われます。設計図が完成すると、具体的な製品として具現化され、市場で販売開始されます。通常、製品は、消費傾向、競争圧力、規制要件の変化に合わせて、時間とともに進化します。しかし、もちろん、すべてのひらめきが世に送り出されるわけではないので、このライフサイクルは短くなったり、いずれかの過程が何度も繰り返して行われたりすることがあります。

紛らわしいことに、マーケティングの世界では、製品ライフサイクルという用語は、製品が販売されている期間を指します。この意味での「ライフサイクル」は、製品が市場に投入されてから、成熟して市場の飽和に達するまでの売上成長が対象となります。売上が減少し、製品が生産中止、交換、または再加工される前の段階で、マーケティングライフの終わりとなります。これは、もう一つの製品ライフサイクルと言えます。

この記事では、構想から設計、開発、展開、そして最終的な生産中止までの製品ライフサイクル全体について説明します。PCB設計とハードウェア設計では一般的に、新製品を開発するにあたり部門横断的に取り組む必要があるため、新製品のライフサイクルにはそれを制限する可能性のある要素(個々のチップ、材料、筺体要素、その他の部品、組み込みソフトウェア/ファームウェア)が複数あります。

製品ライフサイクル管理の概要

製品ライフサイクル管理(PLM)とは、製品のライフサイクルの各段階を効率的かつ効果的に管理して、ビジネス目標を確実に達成するプロセスです。こうした目標の達成は、製品のライフサイクル、サプライチェーン、エンドユーザー/顧客への配送にわたるビジネスプロセスとデータを管理することによってもたらされます。 PLMは、初期の設計と開発から、製造、マーケティング、対象期間中のサポート、そして最終的に処分と寿命終了まで、製品がそのライフタイムにわたってたどるすべての段階を対象としています。

電子機器であるなしにかかわらず、物理的な製品を設計する際には、PLMは製品の製造に関わるすべての関係者を集めて、設計と製造プロセスを合理化する必要があります。PLMの目的は、適切な製品を大量に生産し、適切なタイミングで市場に投入し、消費者の需要を引き出し、競合他社を上回るパフォーマンスをすることで利益を最大化することです。

PLMの真価を発揮させるには、次のような、包括的なビジネス管理システムの他の基盤と統合させる必要があります。

  • エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)
  • サプライチェーンマネジメント(SCM)
  • 顧客関係管理(CRM)
  • サプライヤー関係管理(SRM)

PLMシステムにおける上記サブシステムは、通常、物理的な製品、それを生産する能力、および顧客に提供する能力にのみ焦点を当てています。エレクトロニクス分野の新しいクラウド・コラボレーション・プラットフォームでは、設計データをPLMで使用される他のすべてのデータとともに一元管理できるため、製品のすべての側面に関する信頼できる唯一の情報源となります。

製品ライフサイクル管理:構想

構想段階は、最初のアイデアが製品の実行可能なコンセプトに変換される段階です。この段階で、製品が実現可能であり、販売目標を達成するのに十分な需要のある市場があるかが判断され、魅力的な提案であるためにそのライフタイムにわたって適切な投資収益率がもたらされるかが試算されます。

実現可能性では、アイデアを具現化するためのテクノロジーが存在するかどうか、そのアイデアを設計して製品に開発するためのリソースが会社にあるかという点が議論されます。実現可能性評価の一環として、フロントエンドエンジニアリングをこの段階から開始することができます。この段階では、必要な機能とユーザーエクスペリエンスを比較しながら、要件を評価および調整します。 製品の機能を実現する主要な要素である重要部品も、この段階で選択される場合があります。

PCBサプライチェーンにおけるコンポーネントの選択
主要コンポーネントは構想段階で選択される場合がありますが、これには、生産中止または在庫切れの部品を特定できるサプライチェーンにおける可視性が不可欠です

市場性では、十分な顧客が目標価格で製品を購入する意思があるかどうかという点が議論されます。これは、ターゲットユーザーの人口統計、既存の競合、および開発中の競合製品による影響を受けます。
投資収益率では、予測される販売収入と、製品のライフタイム全体にわたる開発・運用・サポートにかかるコストとのバランスが評価されます。

構想段階では、製品の機能と対象外の機能を正確に定義するため、一連の製品要件を定めることになります。PLMプロセスは、これらの製品要件の照合と管理をサポートして、製品を設計するための信頼できる唯一の情報源となる必要があります。

製品ライフサイクル管理:設計

設計段階では、製品要件を製品開発の青写真に変えます。この中で、設計要件に照らして製品を評価するためのプロトタイプの生産および概念実証なども行われます。通常、設計段階は反復プロセスで、各ループからのフィードバックをもとに、利害関係者が要件を満たすまで設計を改良および強化していきます。エレクトロニクス業界では、CADやとシミュレーションを活用して、設計プロセスを進めていきます。

今日、クラウド・コラボレーション・ツールは、PCB設計チームの標準ツールとなりつつあります。これらのプラットフォームは、多岐にわたる設計分野でPLMを徹底するのに便利だからです。これには、次の分野における設計および生産データが含まれます。

  • 回路図やPCBレイアウトを含む電気設計データ
  • MCADソフトウェアで作成された機械筺体の設計とモデル
  • 回路レベルおよびPCBレイアウトレベルでのシミュレーションデータ
  • 詳細な部品表を含む製造およびアセンブリファイル
  • 設計レビュー中に生成されたドキュメントデータおよびその他のレポート
  • 生産中にファームウェアを書き直すために使用される組み込みファームウェアコードとバイナリ

PLMプロセスは、設計段階で生成された設計データの作成、共有、および管理をサポートできなければなりません。最新のPLMシステムとプロセスではこのデータが一元管理されており、統合型バージョン管理システムを使用して設計の進捗状況を追跡することができます。このシステムにより、設計チームメンバーは、設計中および製品のライフサイクルを通じて反復的に行われる製品への変更履歴を管理できます。PLMシステムは、これらの製品設計データの照合と管理をサポートして、製品を製造するための信頼できる唯一の情報源となる必要があります。

Altium DesignerのStorage Managerパネル
設計者が必要に応じて以前のバージョンに戻れるよう、設計段階全体で設計の改訂が追跡できなければなりません。設計者は、製品の寿命を最大限に延ばし、製品の寿命が近づいたときに他のバージョンを作る準備ができるよう、設計段階の過程で適用された変更を確認できるとよいでしょう。

製品ライフサイクル管理:実現

製品の実現段階では、完成した設計を生産可能な製品に変換し、高い生産性を維持して大量生産することになります。完成した製品を市場に投入した段階で開発プロセスが終了し、製品の発売、流通、販売促進を行うためにマーケティングと販売のプロセスが始まります。PLMプロセスは、製品情報の照合と管理をサポートして、ユーザーマニュアルやマーケティング資料などの製品ドキュメントを作成するための信頼できる唯一の情報源となる必要があります。設計・生産・ドキュメンテーションデータを一元管理することにより、生産チームが最新のデータに基づいて作業し、極めて高い生産性と再現性で生産できるようになります。

製造段階における設計レビュー
図面や機械構造図を含む製造および設計データは、PLMの一部として単一のリポジトリでまとめて保管されていなければなりません。

生産データはPLMシステムで保管し、設計データとともにバージョン管理される必要があります。この2つは密接に関連しているため、別々に保管することは得策ではありません。設計者は、標準的な設計データと一緒に製造データをチェックする必要がある場合がよくあります。

製品ライフサイクル管理:展開

製品展開段階は、ライフサイクルにおける「サービス提供中」の製品が対象となり、信頼性と保守性における問題を管理するためのサポートや顧客からのフィードバック管理を含みます。フィードバックや有用性指標を念頭に継続的な改善プロセスが行われ、製品が改良・改善されていきます。この段階では、製品ファミリー内にある製品のアップグレードや構成の変更がサポートされます。PLMプロセスは、製品の用途、故障報告、サービス提供中のサポート情報の照合と管理をサポートして、開発プロセスに役立つ、信頼できる唯一の情報源となる必要があります。

製品寿命終了

製品ライフサイクルの終わりには、生産中止や処分など、製品の市場からの撤退の管理が必要になります。製品は通常、追加機能や能力を提供する新機種に置き換えられることがありますが、以前の機種がしばらくの間サプライチェーンや現場に存在する場合があります。PLMプロセスは、廃棄プロセスを促進するため、製品情報の管理をサポートしていきます。

PLMシステムの実装

PLMシステムは、プロジェクトマネージャーから設計者、マーケティング担当者、サポートスタッフまで、すべての関係者がアクセスできる統合ソリューションで、プロセスとデータを一元管理することにより電子設計プロジェクトのプロジェクト管理を合理化します。これにより設計チームメンバーは、分断された組織でよく見られるぶつ切りされた情報ではなく、すべての関連情報にアクセスできるようになります。このように可視性が向上することで、要件の明確化や曖昧さによる問題を防ぐことができます。また、他の利害関係者にとっても、設計上の決定を行うための可視性がもたらされ、彼らの視点が考慮されるようになります。

Altium 365 Workspace
すべてのプロジェクト関連データと補足資料を一元管理するリポジトリは、包括的なPLMプロセスを実現するための最初のステップです。

適切に実行されるPLMは、製品開発活動全体でデータ管理を促進し、信頼できる唯一の情報源を強化します。さらに、データの整合性も維持し、その管理もサポートします。適切に実行されるPLMはプロセスを最適化し、開発時間を短縮してスピーディな市場投入を実現するワークフローを効率的に管理することにより、よりスムーズにプロジェクトを実現します。競争の激しい市場では、最初に市場に投入された製品の販売に勢いがつき、後発製品よりもよい評判が得られる傾向があるため、迅速な市場投入が非常に重要です。

PLMシステムにより自動化と検証がプロセス内で行われるようになることで、ライフサイクル全体にわたるエラー発生件数を減らし、問題解決に必要な労力と、実現段階まで問題が発見されずにいた場合のリソースの無駄を削減します。こうしたメリットは、設計と製造プロセスを統合することにより実現されます。

PLMシステムは、利害関係者間のコミュニケーションとプロジェクトデータの可視性を向上させるだけではなく、開発品質を引き上げ、誤解や情報不足による設計ミスリスクを軽減します。これは、専門分野が異なる、複数の地域にまたがるメンバーが製品開発プロジェクトで共同作業を行う際に特に重要となります。

まとめ

しっかりと製品ライフサイクル管理を行うことにより、プロジェクトの開発段階にわたり大幅な改善がもたらされます。しかしここでのメリットは、プロジェクト管理者と製品設計チームを含むすべての利害関係者に限定されています。製品ライフサイクル管理の核となるのは、プロジェクトデータ管理です。第4次産業革命とも言われる「インダストリー4.0」の採用や、開発プロセスを強化する人工知能ソリューションの導入により、製品ライフサイクル管理システムは、電子機器の開発企業に必要な次なるステップと考えられるかもしれません。

Altium Designerは、業界最高の設計ツール、クラウド駆動型の一元管理バージョン管理システムであるとともに、すべてのデータ管理を行う唯一のPCB設計プラットフォームです。設計チームは、 Altium 365 プラットフォームとAltium Designerの機能満載の設計ツールを使用し、業界標準の製品ライフサイクル管理プラットフォームを統合し、構想段階から生産段階まで設計を追跡できます。

製品ライフサイクル管理についてまだご不明な点がありますか?ここでご紹介したAltium 365でAltium Designerの機能はほんの一部です。Altium Designer + Altium 365 の無料トライアルを今すぐ開始してください

筆者について

筆者について

Mark Harrisは「技術者のための技術者」とでも言うべき存在です。エレクトロニクス業界で12年以上にわたる豊富な経験を積んでおり、その範囲も、航空宇宙や国防契約の分野から、小規模製品のスタートアップ企業や趣味にまで及んでいます。イギリスに移り住む前、カナダ最大級の研究機関に勤務していたMarkは、電子工学、機械工学、ソフトウェアを巻き込むさまざまなプロジェクトや課題に毎日取り組んでいました。彼は、きわめて広範囲にまたがるAltium Designer用コンポーネントのオープンソース データベース ライブラリ (Celestial Database Library) も公開しています。オープンソースのハードウェアとソフトウェアに親しんでおり、オープンソース プロジェクトで起こりがちな日々の課題への取り組みに求められる、固定観念にとらわれない問題解決能力を持っています。エレクトロニクスは情熱です。製品がアイデアから現実のものになり、世界と交流し始めるのを見るのは、尽きることのない楽しみの源です。

Markと直接やり取りする場合の連絡先: mark@originalcircuit.com

関連リソース

関連する技術文書

ホームに戻る
Thank you, you are now subscribed to updates.