電子機器のベテランであれば、SPICE シミュレーションについて精通しているかもしれませんが、熟練した技術者でも直感と経験だけ回路を設計することはできません。SPICEはおそらく、PCB設計や集積回路設計などの電気設計、その他の電気システムの設計で利用されている最も有名なシミュレーション ツールでしょう。ここでは、SPICE シミュレーションの概要と仕組み、ベストプラクティスについて詳しく解説します。
SPICEシミュレーションについて知らなくても、PCB設計でシミュレータを使ったことがなくても、心配は無用です。電気シミュレーションの専門家になる必要はありませんが、SPICEシミュレータの使い方や結果を解釈する方法を知っておくと、多くの用途で正確な設計が可能になります。この記事を最後までお読みになれば、SPICEシミュレーションとは何か、そしてどのように設計で使用するのかについて理解できるようになります。
SPICEは「Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis」の頭字語であり、集積回路だけでなくさまざまな設計で利用できるシミュレーション フレームワークです。カリフォルニア大学バークレー校で開発されたオリジナルのSPICEシミュレーション アプリケーションはオープンソースとして公開され、今日のSPICEの基礎となっています。このアプリケーションでは、多くのアナログ信号やデジアナ混在信号の回路の電気的な挙動をシミュレーションすることができます。デジタル シミュレーションの多くは基本的なSPICEシミュレーション アプリケーションで実行可能で、より専門的なSPICEシミュレータではデジタル回路の論理シミュレーションを行えます。
一般的なSPICEシミュレーション アプリケーションで実行できる基本的な解析としては、以下が挙げられます。
これらの基本的な解析とは別に、市販されているさまざまなSPICEアプリケーションでは異なる機能、ユーザーインターフェース、コマンドが提供されています。そうした市販のアプリケーションやオンラインのオープンソース プログラムとして提供されているさまざまなSPICEシミュレータには、独自の接頭辞や接尾辞が付いています(HSpice、LTSpiceなど)。プログラムそのものの使い勝手や機能はかなり違うかもしれませんが、回路解析の問題を解決するための基本的なアルゴリズムはすべて同じです。
SPICEで使用される主な手法は節点解析であり、行列で書かれた連立一次方程式を返し、行列演算でこの式を解きます。このアルゴリズムは、単純な回路であれば手動で実装できるものの、大規模な回路になるととたんに難解な問題になってしまいます。100個以上のコンポーネントと同じような数のネットで構成される回路を想像してみてください。そうした回路の電圧と電流の値を求めるためには、非常に長い行列方程式を解かなければなりません。
特定の回路について行列方程式を導くには、節点解析で回路図の節点を定義し、各コンポーネントの電圧降下について連立一次方程式を導く必要があります。下の画像では、3つの節点 (A、B、C) とGNDが基準節点となっています。節点解析の「基準節点」とは、節点で測定される電圧がGNDを基準として測定されることを意味します。実際には、複数の基準節点を持つこともありますが、これは異なる電位で直流的に絶縁された複数のGNDを持つことに相当します。
上記の回路の行列方程式は、隣接する節点間の電圧降下の関数となる一般的な式となっています。つまり、(GNDを基準節点とした) 節点間の電圧差と入力電圧の集合の関数である方程式を書くことができます。
この行列方程式で計算する必要がある電圧 (V) は、周波数領域内、または時間依存になることがあります。この方程式を異なる時間と周波数で繰り返すことで、各節点の電圧と電流を計算できます。これも手動で行えますが、統合されたSPICEシミュレータではこの面倒なプロセスが自動化されています。
このような行列方程式を得ると、ガウス・ジョルダン法と呼ばれる手法を用い、これらの方程式の数を、反復して解くことができる程度まで通常は減らすことができます。ご自身でコード化する場合はその方法の詳細をオンラインで調べられますが、SPICEシミュレータでは、ガウス・ジョルダン法を用いて反復計算を効率的に実行できます。
PCB設計者はシミュレーションよりも配線に重点を置いているかもしれません。しかし、現在のPCBレイアウト設計者は電気技術者の役割も果たす必要があります。つまり、回路の設計に時間を費やし、回路でシミュレーションを行って適切な機能性を確保しなければなりません。さらに、ファームウェアの開発、製造の準備、調達、機構設計といった他の仕事も待っています。
最良のPCB設計アプリケーションでは、SPICEシミュレーション ツールやPCBレイアウト機能など、必要なものがすべて1つに統合されています。SPICEシミュレーションについて理解すれば、Altium Designer®のツール一式で回路のすべての要素を設計してシミュレーションを行えるようになります。そうすれば、外部の回路設計ユーティリティを使用することなく、空白のPCBレイアウトにコンポーネントをインポートできます。Altium Designerの業界最高の設計ツールでは、PCB のあらゆる側面をコントロールすることが可能です。
設計の完了後にプロジェクトを共有する場合は、Altium 365™プラットフォームを利用すると他の設計者との共同作業が容易になります。ここでご紹介したのは、Altium 365とAltium Designerで実現できることのごく一部にすぎません。機能の詳細については、製品ページまたはオンデマンドのWebセミナーをご確認ください。