この記事では、HDI回路の製造に使用される材料について解説します。プリント基板用の材料については、いくつかの優れた資料(例えば、Holden & Coombsにより編纂された『プリント基板回路ハンドブック』など)が存在するため、ここではHDIに固有の材料に限って解説します。
現在のHDI材料市場は、BPA Consulting Ltd.により、全世界で8,300万平方メートルと推定されています。BPA Consulting社は、この市場を使用量の順に11のHDI材料に分類しています。
プリント基板の主要な材料成分はポリマー樹脂(絶縁体)で、充填剤、強化、金属箔付きのものとなしのものがあります。一般的な構造を図1に示します。基板を形成するには、金属箔のレイヤー間に別々の絶縁体のレイヤーを、強化付きまたはなしで積層します。
材料の大部分はエポキシですが、一部にはBT、PPE、シアン酸エステル、および変性アクリレートも使用されます。最新の動向としては、レーザー穴開け可能なプリプレグが増加しています。
図1. PWMラミネートの構造 [出典: PCハンドブック、第7版]
業界で主流だったのはエポキシ樹脂です。エポキシは比較的低コストで、粘着性(それ自身にも、金属箔にも)が優れており、熱、機械的、電気的性質が良好であることから、主に使用されてきました。より優れた電気的特性、鉛不使用の半田の温度に耐える能力(表1を参照)、環境規制の遵守が要求に加わったことから、エポキシの化学的性質は近年に大きく変化しました。
エポキシは熱硬化性の樹脂で、硬化剤と触媒により架橋反応を促進させ、最終的な硬化物となります。またエポキシは本質的に可燃性であるため、樹脂に燃焼抑制剤を混ぜることで、可燃性を大幅に減少させています。従来は、硬化剤としてDICYが主に使用されていましたが、現在では各種のフェノール類が使用されています。燃焼抑制剤として従来使用されてきたブロム化合物(TBBA)は、基板廃棄時に臭素が環境に放出される懸念から、リン化合物など他の化合物に置き換えられつつあります。多くの企業は、将来的な使用禁止、および「グリーン」規制の出現を予測して、「ハロゲンフリー」の要件に移行しました。
表1. 「鉛フリー」積層物とSTIIの4つの重要な熱特性。
図2. 一般的な積層物のいくつかのSTII値。
他の一般的な樹脂は、エポキシ樹脂系の固有の欠点を解消するため選択されます。BT-エポキシは、熱的な安定性から有機チップパッケージで一般に使用されます。ポリイミドやシアン酸エステル樹脂は、電気的特性が良好なこと(DkとDfが低い)、および熱的な安定性の向上のために選択されます。これらをエポキシと混合することで、コストを低く維持しながら、機械的特性を向上できることがあります。鉛フリーのアセンブリの重要な熱的特性はSTIIです。いくつかの積層物での値を、図2に示します。
熱硬化性の樹脂の他に、ポリイミドやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など熱可塑性の樹脂も利用されます。熱可塑性のポリイミドは比較的砕けやすいのに対して、熱硬化性のポリイミドは柔軟性があり、薄膜形式で供給されます。これらは一般に、フレキシブル回路や、リジッドフレキシブルと呼ばれる組み合わせ回路の作成に使用されます。エポキシより高価なため、必要な場合のみ使用されます。
図3. 多くのPWB積層物についての積層物代替品のチャート
HDI用の適切な積層物を選択するための手引きとして、全世界で選択されている積層物と、それぞれの等価性を図3に示します。
プリント基板の作成に使用される絶縁体材料のほとんどは、樹脂系に強化が組み込まれています。この強化は通常、ファイバーグラスの編み込みで行われます。編み込みファイバーグラスは普通の布と同様に、細糸を織り機で編み込んだものです。直径の異なる細糸と、各種の織りパターンを使用することで、さまざまな形式のグラス布が作成されます。
ファイバーグラスにより絶縁体の機械的および熱的な耐久性が強化されますが、HDIの構築に使用する場合にはいくつかの問題があります。織り込まれたガラス繊維を図5に示します。また、これらの織り糸の形式、撚り糸、太さを表に示します。レーザーを使用してビアを作成する場合、ファイバーグラスと周囲の樹脂とのアブレーション速度が異なることから、穴の品質が低下することがあります。また、ファイバーグラス布にはガラスのない部分、1つしか撚り糸のない部分、撚り糸の交差部分(ナックルとも呼ばれます)が混在しており、均一でないため、これら全ての領域について穴開けパラメーターを設定するのは困難です。通常は、穴開けを行う最も固い領域、つまりナックル領域に合わせて穴開けのパラメーターが設定されます。
ファイバーグラスの製造業者は、撚り糸を両方向に広げ、繊維をより均一にして、ファイバーグラスがない領域とナックル領域を最小限に抑えることで、レーザー穴開け可能な絶縁体を作り上げました。現在利用可能なLDPと、それぞれの特性を、図4に示します。これらのファイバーグラスを貫通するためには、依然として樹脂よりも多くのエネルギーが必要ですが、パネル全体で一貫した結果が得られるよう、穴開けのパラメーターを最適化できるようになりました。
図4. レーザー穴開け可能なファイバーグラス布の仕様表
ファイバーグラスで強化された絶縁体の制限から、企業は別の絶縁体ソリューションを探し求めるようになりました。レーザー穴開けの問題(穴の品質低下と、穴開けに必要な時間の長さ)に加えて、織り込まれたファイバーグラスの厚さにより、基板の薄型化が制限されていました。これらの問題点を克服するため、絶縁体のキャリアとして銅箔を使用することで、基板への組み込みが可能になりました。これらの材料は「樹脂被覆銅(RCC)」と呼ばれます。RCC箔は、ロールツーロールのプロセスで製造されます。
図5. 標準とレーザー穴開け可能のファイバーグラス布の写真。
銅は被覆ヘッドを経由し、銅の処理面に樹脂が堆積されます。その後で乾燥オープンに入れられ、部分的に硬化した「B」ステージになり、内部回路の周囲の領域に流れ込んでコアに結合します。樹脂系は通常、積層化プロセスにおける過剰な押し出しを回避するため、フローリストリクターにより変更されます。
ほとんどのRCC箔はこの方法で製造されますが、他の種類も存在します。その1つが、2ステージ製造です(図6)。最初の樹脂レイヤー被覆が行われた後で、再度被覆器に入れられ、2番目のレイヤーが追加されます。2回目の被覆の間に最初のレイヤーは完全に硬化し、2番目のレイヤーは「B」ステージになります。このプロセスの利点は、最初のステージがハードストップのように機能し、レイヤー間の厚さの最小化が保証されることです。欠点は、単一被覆のものより製品がより高価になることです。
RCC箔の全ての利点を考慮しても、寸法の安定性や厚さの制御において強化の不足の懸念があります。これらの懸念に対処するため、新しい材料が開発されました。三井金属鉱業の開発したMHCGでは、樹脂被覆プロセスで非常に薄いファイバーグラス(1015または1027)が組み入れられます。このファイバーグラスは非常に薄いため、従来のファイバーグラスのように処理タワーを通過できないので、プリプレグに組み込むことはできません。また、ポリイミド/エポキシRCCも利用可能です。
このファイバーグラスはレーザー穴開けの重要性には影響しませんが、標準のプリプレグと同等以上の寸法的な安定性が得られます。現在では、約25ミクロンの薄さの絶縁体レイヤーが利用でき、非常に薄いマルチレイヤー製品が製造可能です。
RCC箔の別の問題点はコストです。RCC箔はほとんどの場合、同等なプリプレグと銅箔の組み合わせよりもコストが高くなります。しかし、レーザー穴開けの時間を考慮すると、実際にはRCC箔によって製品のコストが低減する可能性もあります。穴の数と領域のサイズが増大するにつれ、レーザー穴開けのスループット向上は、RCC箔のコスト増大よりも大きな効果をもたらすようになります。
図6. 樹脂被覆銅(箔)に使用可能な4つの形式。
最適化された液状エポキシを使用すると、HDI用のどの絶縁体よりもコストを低減できる可能性があります。また、薄いレイヤーに細線の配線を行うには、この方法が最も簡単です。スクリーン印刷、垂直または水平のローラー被覆、メニスカス被覆、またはカーテン被覆による被覆が可能です。太陽インキのブランドが最も多く使用されていますが、田村、東京応化工業、旭電化工業も独自の製品を提供しています。
ポリフェニルエーテル/ポリフェニレンオキサイド: M.P > 288℃はポリフェニルエーテル(PPE)またはポリフェニレンオキサイド(PPO)の熱可塑性プラスチックで、融点が288℃~316℃を大きく超えています。PPO/エポキシの混合物はTg > 180℃で、分解温度はこれより高くなります。これらの材料は、エポキシや吸水率の低いBTなど多くの熱硬化性樹脂よりも比誘電率と損失正接が低いことによる、優れた電気的特性から、広く使用されています。融点と耐薬品性が高いため、スミア除去が重要なプロセスとなります。
非常に高速のロジックに適したものも含め、一般的な絶縁体の比誘電率(Dk)と損失係数(Dj)を、図7に示します。HDI設計用の高速性能に関係する他の電気的特性の一覧を、表2に示します。
図7. 各種の積層物の比誘電率と損失係数による電気的特性。
表2. 高速回路を設計するとき考慮すべき他の重要な電気的特性。
非常に高速のロジックでは、信号は導体の表面を伝わります(表皮効果)。滑らかな銅箔により、非常に細く、銅損失が小さい配線と空間の製造が可能になります(図8を参照)。図9では、5ミクロンまたは3ミクロンの銅箔、またはmSAPプロセスにより、非常に細い配線が製造可能です。
図8. 箔の付着処理には4つのプロファイルがあり
銅損失(表皮効果)のため重要になります。
図9. 非常に薄く滑らかな銅箔により
非常に細い配線と空間が可能になります(8um/8um)。
高密度接続用の材料は、プリント基板設計者および電気技術者にとって重要な課題です。基板用の材料については、いくつかの優れた資料が存在するため、ここでは技術者がプリント基板を設計するために役立つよう、HDIに限って解説します。
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